次世代車に求められる高分子材料概要【Automotive Materials 第32号特集1】
自動車関連事業推進センター
1.はじめに
2015年3月、バヌアツ諸島を巨大サイクロン「パム」が襲い首都壊滅に近い甚大な被害をもたらした。年々巨大化する熱帯低気圧は温暖化の影響ではないかと懸念されている。事実、2014年の世界の平均気温は観測史上最高の気温を記録した。気温の上昇が始まったのは化石燃料を大量に使いだした産業革命以降であり、その主原因はCO2などの温室効果ガスと言われている。生態系を破壊させないためには産業革命時より気温を2℃上昇以内に収める必要があり、そのために先進国はCO2排出量を2050年までに1990年比で80%削減しなければならないことが主要国首脳会議での世界に向けた合意事項になっている1)。日本が国としてその目標にどのように取り組むかは見えない状態ではあるが、自動車としてはその目標に対応した開発は進めて行かなければならない状況にある。
2014年12月、トヨタ自動車(株)から世界初の量産車の燃料電池車(FCV)「MIRAI」が発売になった。価格は1台約720万円。それに先立ち政府は1台当たり202万円の補助金支給を表明、岩谷産業(株)からは水素ステーションで供給する燃料である水素の値段を1,100円/kgと格安で販売する方針が出された。「MIRAI」の初号車が首相官邸に納入されるに際し安倍首相から「水素社会の幕開け」とコメントが出され、舛添東京都知事は2020年東京オリンピックを「水素社会の見本市に」とアピールするなど日本国内ではFCVフィーバーに湧いている様子が窺える。FCVは走行中に全くCO2を排出せず、航続距離が長いことから「究極のエコカー」ともてはやされており、ハイブリッド車(HEV)から始まった次世代車の量産車が、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(P-HEV)を加えてそろい踏みになったことから、これら次世代車に求められる高分子材料について展望する。合わせて自動車用高分子材料の新しい取組みについても触れることとする。
7.まとめ
2050年に向けて自動車をどのように変えていかなければならないか、次世代車の役割はいかに大事であるかを述べてきた。しかし、走行中のCO2排出量がゼロであるということだけで温暖化を防げるというのは短絡である。電気や水素は二次エネルギーであり、元が化石燃料であればCO2排出量を減らしたことにはならない。エネルギー製造から搬送、貯蔵タンクに入るまで全ての工程にはエネルギーが必要であり、その分が目減りしていると考えなければならない。つまり「Tank to Wheel」ではなく「Well to Wheel」で考えなければならないということである。最近の報道などはこの点を考えていないフィーバーではないかと思う。石炭で発電し、その電気から水素を造りFCVに使うならば、Well to WheelならCO2排出量は通常のガソリン車の2倍近くにもなるという検討結果も出されている12)。どちらにしてもインフラを含めてまだ課題が多く、どの時期にどのような車が主力になるのかはまだまだ不明と言える。
その次世代車に向けてのプラスチックの使い方について述べてきた。軽量化はどのような車になったとしても基本技術であり、次世代車になればますます重要な技術になってくる。軽量化の効果が大きく、構造部品にも使えることで注目を浴びているCFRPを一般車に適用していくための最大の課題はコストである。コスト高はCFの値段ばかりではなく、製造工程が複雑で長いことが原因になっている。最近では製造時間を短縮する目的で熱可塑性プラスチックをマトリックス樹脂に使う複合材(CFRTP)の研究が進んでおり、これによって汎用的にCFRPを適用できるようにならないか期待している。
一方、電動化における高熱伝導絶縁材料や高機能・高性能内装部材などの創成は高分子材料が持っている機能を掘り下げて製品化していく工夫と言える。高分子材料が発揮する機能は元をたどれば分子構造に因る。高分子物質の主要な基本骨格はC-C結合、C-H結合である。その分子的な特徴から高分子材料の機能をつかみ製品化していく流れを示した例が図17である。高分子材料を安物のまがい物から重要な機能部品に、あるいは高級化の追求、いずれも機能をどのように活かすかということに集約される。
次世代車への高分子材料の適用は構造部品から機能部品まで領域の広がった新しい使い方が模索されることでもあり、新しいビジネスチャンスとして期待されている。
参考文献
1)外務省:北海道洞爺湖サミットの概要(2008年7月)
2)各カーメーカーのカタログより筆者がプロット
3)一般社団法人次世代自動車振興センター統計資料(2014)
4)金成克彦:高分子,Vol.26,p557(1977)
5)大庭敏之:プラスチックス・エージ社編 プラスチックスエージ,Vol.60,Jan.,p75-81(2014)
6)脇坂康尋:工業材料,Vol.62,No11,p29-35,(2014)
7)真下清孝,鈴木健司,福地巌,伊藤敏彦,西村伸:日立化成テクニカルレポート,No45,p7-10,(2005)
8)村瀬勝彦,西村尚哉,恩田貴量:日本材料学会編 材料、Vol.60,No6,p527,June(2011)
9)橘学:プラスチックス・エージ社編 PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>2011,Vol.43,p25-35,(2010)
10)熊沢金也:高分子学会編 高分子,Vol.55,(12),p951(2006)
11)高橋香帆,小暮成夫,福井孝之,吉田智也,村上憲太郎:自動車技術会編 自動車技術,Vol.66,No6,p10-11,(2012)
12)(財)日本自動車研究所:「総合効率とGHG排出の分析報告書」(2011年3月)
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