自動車関連事業推進センター

次世代自動車に求められる高分子材料5.プラスチックによる軽量化

  これまで車の軽量化に対してプラスチックが果たした割合はそれほど大きくない。図6には、剛性を合わせた材料でスチールから材料代替を行う場合の軽量化効果を計算値で比較した。プラスチックはほとんど強度部品として使われることはないからこの等剛性設計の比較は妥当であろう。その結果、スチールをアルミニウムに替えると部品重量は1/2、マグネシウムに替えると1/3になるが、プラスチックは軽いが等剛性にするには厚くしなければならず、大まかに3~4割の軽量化に過ぎなくなる5)。図6では常温での弾性率を用いているのでより高い実用温度ではさらに目減りすることになる。しかし、炭素繊維複合材(CFRP)は7~8割の軽量化につながり、著しい効果がある。これが航空機でCFRPの適用が進んでいる理由である。

  実際にプラスチック化がどの程度軽量化につながり、どれだけのCO2排出量の削減になっているかLCA(Life Cycle Assessment)的な観点から述べる。図7にはフロントエンドモジュールの主要な部品、ラジエータコアサポートのプラスチック化の例を示す5)。素材としてはスチールからガラス繊維(GF)強化PP(射出成形品)となり、さらに軽量化のため炭素繊維(CF)強化PP(射出成形品)が適用されてきた。これにより部品重量は、スチールの5.8kgの部品をPP-GFでは4.1kgに、PP-CFでは3.1kgへと軽量化でき、生涯CO2排出量は図8に示すようにそれぞれ20%減、24%減となる。CF充填系で軽量化の割にCO2排出量が減らないのはCF製造時のCO2排出量が大きいからである。そのため現在は、PP-CF製ラジエータコアサポートの採用は重量バランスが特に要求される高性能車に限られている。また図8からも解るようにプラスチックは成形しやすいという特長があるので、部品の統合化・一体化をすることで、軽量化だけではなく原材料のコスト高を成形工程の簡略化によって補うことができるという利点があり、このことも樹脂化が進んでいる理由に挙げられる。

  次いで、ドアモジュールにおけるプラスチック化の例を紹介する。図9にはドアモジュールのシステム図を示す。骨格のモジュールプレートをプラスチック化した。このような平板状プレートは形状剛性を取り難いのでプラスチック化はし難い部品である。図10には軽量化の効果と生涯CO2排出量削減効果を示した。素材をスチールからPP-GFにすることで42%の軽量化ができた。さらに、コアバック法による射出発泡成形によって軽量化は50%にもなった。コアバック法発泡は単に発泡させるということだけではない。撓み時の力を受け持つ両表面は緻密なスキン層に、力を受け持たない中心部は空気層に成形することで断面二次モーメントを上げることができる結果、効果的に剛性が大きくなり軽量化ができるという例である。それぞれ生涯CO2排出量を30%、37%削減できたことで大きな効果が得られている。

  以上の二つのケースはモジュール構造でのベースをプラスチック化することによる軽量化であるが、ベース部品には他の多くの部品が取り付けられるので形状が複雑になりがちであり、成形し易いプラスチックにとっては適用に好都合なシステムであるといえる。

  もう一つのプラスチック化の例として、図11にプロペラシャフトのCFRP化を紹介する5)。プロペラシャフトは高速で回転するが共振は絶対に避けなければならない。そのためには軽くすること、剛性を上げることが必要である。スチールでは、1本のシャフトだと剛性が落ちる上、重量が大きいため共振点が下がり成立せず、中間のセンターベアリングの介在が必須となる。一方CFRPでは、軽く剛性も大きくできるので共振周波数を上げることができ、この点でセンターベアリングは不要である。さらに、シャフトの設計では、衝突時のエンジン損傷を避けるためにどこでシャフトの破壊を生じさせるかが重要な観点となる。スチールではこれをセンターベアリングに頼っているが、CFRP製シャフトは回転方向には剛であっても圧縮方向の強度を繊維の編み角で調整ができるためと、シャフト本体と結合部の構造で任意に破壊させることが可能である。この二つの理由でセンターベアリングを省略することができ、大幅な軽量化が達成された。そのLCA的解析結果を図12に示した。生涯CO2排出量で30%以上の削減という非常に大きな効果が発揮できたが、コスト的な問題で限定的な採用にとどまっている。しかし、CFRPについては軽量化効果が著しいために車体本体への適用検討も行われている。まだ高価であり一般車への適用は難しいが、工程の革新技術も含めてコストの圧縮検討も進んでおり、採用拡大が期待される。

  また、プラスチックの接着機能を生かした効果的な軽量化技術を紹介する。自動車の骨格構造には、ピラーのような閉断面構造を持つ箇所が多い。ここに発泡性接着剤の発泡圧を使って鉄板と接着し、剛性、強度を上げることができるという例である。図13は村瀬らの研究8)ではあるが、閉断面構造体の断面ハット型形状部材に接着性発泡剤を注入した効果を示した。発泡体そのものは柔らかい材料であるが、閉断面構造に挿入することで効果を発揮する。この例から、単に挿入しただけでは効果が小さいが、充填接着することで両材料の座屈が抑えられて大きな効果が出ることが分かる。スチールと組み合わせることでスチールの性能をさらに活かすという例である。

プラスチック化による軽量化として以下の3つの考え方ができる。

  1. (1)成形性の自由度を生かした形状の工夫。
    必要なところに必要な厚さを、あるいは局部的にリブ構造を付与することによって剛性を確保することで、これまでも多くのプラスチック部品で採用されてきた。
  2. (2)成形性の良さを生かした部品の統合化。
    一番の効果はそのままの形で軽量化することではなく、統合化で部品が無くなることである。重量ゼロが最も軽くなることであり、ボルト1本なくすだけでもその分は軽量化になる。モジュール化ではこの特性をうまく利用している。
  3. (3)高(低)剛性材料との複合化。
    各素材にはそれぞれの特徴がある。また、部品は形状を持っており応力の掛かり方は均一ではない。従って、複数の素材を使いどのように荷重を分担させるかということで効果的に軽量化できるという考え方である。CFRPも高剛性、高強度のCFとの組み合わせと見ることもできる。逆に応力が発生しないところなら弱いが軽い空気との複合化(発泡)でもいい。それによって軽量化しながら断面二次モーメントを上げることもできる。プラスチックの大きな利点は成形性であり、組み合わせることも、発泡体にすることも容易にできる点にある。

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参考文献
1)外務省:北海道洞爺湖サミットの概要(2008年7月)
2)各カーメーカーのカタログより筆者がプロット
3)一般社団法人次世代自動車振興センター統計資料(2014)
4)金成克彦:高分子,Vol.26,p557(1977)
5)大庭敏之:プラスチックス・エージ社編 プラスチックスエージ,Vol.60,Jan.,p75-81(2014)
6)脇坂康尋:工業材料,Vol.62,No11,p29-35,(2014)
7)真下清孝,鈴木健司,福地巌,伊藤敏彦,西村伸:日立化成テクニカルレポート,No45,p7-10,(2005)
8)村瀬勝彦,西村尚哉,恩田貴量:日本材料学会編 材料、Vol.60,No6,p527,June(2011)
9)橘学:プラスチックス・エージ社編 PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>2011,Vol.43,p25-35,(2010)
10)熊沢金也:高分子学会編 高分子,Vol.55,(12),p951(2006)
11)高橋香帆,小暮成夫,福井孝之,吉田智也,村上憲太郎:自動車技術会編 自動車技術,Vol.66,No6,p10-11,(2012)
12)(財)日本自動車研究所:「総合効率とGHG排出の分析報告書」(2011年3月)

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