高級感を追及する内装材【Automotive Materials 第32号特集6】
自動車関連事業推進センター
次世代自動車に求められる高分子材料6.高級感を追及する内装材
従来から内装部品は最もプラスチック化が進んだところであり、現在では内装部品のすべてが高分子材料に覆われているといっても過言ではない。しかし、「プラスチックみたい」という言葉に表されるように、安物、まがい物といったイメージもつきまとう。一方で、他の素料にない温かみ、柔らかさなどの良さも持っている。逆に本物といわれる革や天然繊維などでは達成できない際立った特性を発揮することもでき得る。そこで高級感という視点で注目される適用例を紹介する。高級感の感じ方として、①触感的な高級感、②視覚的な高級感、③新しい機能を付与した高級感、という整理をしてみた。
6.1触感的な高級感
高分子材料の特徴には、他の材料にない柔らかさと熱伝導率が小さいこと、いろいろな形状に加工し易いことが挙げられる。これらの特性を使って開発したのが図14に示す高触感の合成皮革である9)。従来、シートやインストルメントパネルなどの素材として高級の代名詞のような存在が「革」である。何とも言えない不規則なシワを持ち、触ってもしっとりくる柔らかな感触が好まれてきた。しかし、車載化すると問題になるのが経時的な劣化である。そのために表面に樹脂をコーティングして保護しているが、逆にこれが触感を悪くする原因になっている。室内置きで日光を遮ることができる家具では柔らかな革の触感でも自動車ではゴワゴワ感が出てしまう。そこで物理的な特性は革より革らしく、かつ化学的には劣化し難くするというコンセプトで、人工のプラスチックであるがゆえ触感も耐久性も革の限界を超えることが可能になると考え、革の持つ高級感を数値化して柔らかさは人の指の弾性に近づけ、絞パターンは指紋に近づけたことで革よりソフトな触感の素材として作り上げた。
6.2視覚的な高級感
高分子材料の特徴の一つは透明になり得ることである。他の透明材料と言えばガラスくらいで、軽い透明プラスチックはそのガラスの代替として注目される素材である。この透明な性質を活かして屈折率の異なるプラスチック(例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)とナイロン)をナノオーダー単位で多層積層して糸にすれば光の干渉によって色がつく。いわゆる構造発色と言われているもので、顔料による着色と違って透き通った色が得られる。その構造を図15に示した10)が、南米アマゾン川流域に生息するモルフォ蝶の構造発色機構をプラスチックで再現した繊維である。なお、最近話題になっているピアノブラックと言われる深み感のある部品も、高い透明性を持ち傷つき難い表面硬度を持った部材の特長で、これもプラスチックゆえに成し遂げられる高級感と言える。
6.3 新しい機能を付加した高級感
高分子材料は単独で使っても色々な特徴を持つバラエティーあふれる素材であるが、その一方で、化学的には不安定だとされる。これを逆に考え、目的に合わせて化学的に修飾して特長を出すことにつなげることができる。元々持っている素材の特性を部分的に変性させることで魅力・特性を広げる、そう考えて生まれたのが防汚内装材になる。汚れは一般には油性成分が多い。高分子材料に汚れの成分と親和性があれば汚れは取れにくい。しかし、図16に示すように表面に親水性を有する基を付与すれば、汚れが付いても水をかけることで表面と汚れの間に水が入り込み、汚れを浮かせることができる11)。この性質を繊維に応用して開発されたのが防汚布地表皮材料である。
参考文献
1)外務省:北海道洞爺湖サミットの概要(2008年7月)
2)各カーメーカーのカタログより筆者がプロット
3)一般社団法人次世代自動車振興センター統計資料(2014)
4)金成克彦:高分子,Vol.26,p557(1977)
5)大庭敏之:プラスチックス・エージ社編 プラスチックスエージ,Vol.60,Jan.,p75-81(2014)
6)脇坂康尋:工業材料,Vol.62,No11,p29-35,(2014)
7)真下清孝,鈴木健司,福地巌,伊藤敏彦,西村伸:日立化成テクニカルレポート,No45,p7-10,(2005)
8)村瀬勝彦,西村尚哉,恩田貴量:日本材料学会編 材料、Vol.60,No6,p527,June(2011)
9)橘学:プラスチックス・エージ社編 PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>2011,Vol.43,p25-35,(2010)
10)熊沢金也:高分子学会編 高分子,Vol.55,(12),p951(2006)
11)高橋香帆,小暮成夫,福井孝之,吉田智也,村上憲太郎:自動車技術会編 自動車技術,Vol.66,No6,p10-11,(2012)
12)(財)日本自動車研究所:「総合効率とGHG排出の分析報告書」(2011年3月)
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