次世代自動車におけるプラスチック材料【Automotive Materials 第32号特集4】
自動車関連事業推進センター
次世代自動車に求められる高分子材料4.次世代自動車におけるプラスチック材料
次世代自動車はHEV、P-HEV、EV、FCVとなるが(一般的な定義では次世代車にクリーンディーゼル車も入っているが本稿では含めない)、いずれも一部、あるいは全部が電気によるモータ駆動になることから次世代車の共通項は「電動化」であると言える。これらに共通する重要な部品としては電気を貯蔵する二次電池、駆動と発電するための高性能モータ、そして電気を制御するためのインバータが3種の神器とでもなろうか。これらは今までの内燃機関にはなかった部品である。それ以外は大きな変化はないが、とは言え、EVではエンジンがなく、また、エンジンが停止しているときには負圧や熱を利用していたブレーキやエアコンディショナーは当然変化することになる。ただ、EVの特性として積載できるエネルギーは小さく航続距離が短いという問題から車両の軽量化はこれまでの内燃機関以上に要求されてくる。電動化の共通技術課題を、対高分子材料を中心に表1にまとめた。各電動部品には大電流が流れれば熱が発生する。その熱を外部に逃がさなければ温度は上がりっ放しになり、リチウムイオン二次電池(LiB)は電解質に有機溶剤を使うことから蒸気圧の上昇、溶媒の分解、電極上の反応などにより火災等の危険性が生じる。また、モータでは高温になり過ぎると高性能のネオジウム磁石は減磁してしまう。磁石の耐熱性を上げるためにはディスプロシウムなどを増やさなければならないが、磁束密度と逆相関になりがちなこと、加えてディスプロシウムの入手を100%中国に頼らざるを得ない日本とすれば資源セキュリティ上のリスクも考えなければならない。さらに、インバータは熱を逃がすことができないと小さな素子にし難いということになる。いずれのケースでも発熱した熱を系外に逃がすための高熱伝導絶縁材料が、地味に見えるが高性能化の命運を握っているといっても過言ではない。
一般に高分子材料は電気絶縁性であるが熱伝導率は小さい。一方、電気絶縁性で熱伝導率の高い材料のセラミックスだけでは必要な形に成形し難い。そこで成形性の良い高分子材料に熱伝導性の良いセラミックス粉体を多量に混ぜた高熱伝導絶縁材料が開発されている。図4には「金成の経験式」に基づいた予測式4)でフィラー充填による熱伝導率改善効果を示した。熱伝導率の高いフィラーの充填だけでは大きな改善は見られないが、マトリックス樹脂の熱伝導率が改善できればその効果は大きいことが分かる。そのために分子内にビフェニル基のようなメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂の開発など、高分子素材の熱伝導率をどれだけ向上させられるかの検討が進められており、これには大いに期待している。
図5にはEVの「リーフ」に搭載されているLiBの概略図を示した5)。本電池の特徴は部材がラミネート構造になっていることであり、薄くできることから熱の制御はしやすい。この中で高分子材料が重要な機能を担っているのはセパレータと正極、負極のバインダーである。セパレータには主にPPの微多孔膜が使用されている。微多孔膜はPPのラメラ構造の特性を利用して製造される6)。セパレータの役目は正極、負極がショートすることを確実に防ぐことと、イオンの移動を抵抗小さく早く行うことであり、そのために薄い膜が必要とされる。また正極、負極が短絡して異常昇温した場合でも融解することで穴を塞ぎ、イオンの移動を防ぐことで安全性が上がるとされている6)。バインダーは正極、負極の活物質を極板上に結着する材料であるが、電解液で膨潤し難いこと、充放電時のリチウムイオンの出入りによる体積変化にも耐えられるような柔軟性、電気化学的な安定性などが求められる7)。膨潤が大きくなり活物質間の距離が大きくなると充放電が阻害されるため、大変重要な役目を担っている。現在は正極側にはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)が、負極側にはSBR(スチレンブタジエンゴム)が主として使われている。
また、その他に忘れてならないのは、周辺材料に使う高分子材料の信頼性の問題である。いろいろな機能を持つ電気部品を、過酷な条件に曝される自動車の中の限られたスペースに収めるためのパッケージングの問題も重要な技術である。電気は水の侵入を嫌うだけに色々な箇所を外界からシールする必要もある。取り立てて新しい技術ではないがシステムの信頼性確保のためには重要な技術になり、これらには高分子材料がポイントになることが多い。
参考文献
1)外務省:北海道洞爺湖サミットの概要(2008年7月)
2)各カーメーカーのカタログより筆者がプロット
3)一般社団法人次世代自動車振興センター統計資料(2014)
4)金成克彦:高分子,Vol.26,p557(1977)
5)大庭敏之:プラスチックス・エージ社編 プラスチックスエージ,Vol.60,Jan.,p75-81(2014)
6)脇坂康尋:工業材料,Vol.62,No11,p29-35,(2014)
7)真下清孝,鈴木健司,福地巌,伊藤敏彦,西村伸:日立化成テクニカルレポート,No45,p7-10,(2005)
8)村瀬勝彦,西村尚哉,恩田貴量:日本材料学会編 材料、Vol.60,No6,p527,June(2011)
9)橘学:プラスチックス・エージ社編 PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>2011,Vol.43,p25-35,(2010)
10)熊沢金也:高分子学会編 高分子,Vol.55,(12),p951(2006)
11)高橋香帆,小暮成夫,福井孝之,吉田智也,村上憲太郎:自動車技術会編 自動車技術,Vol.66,No6,p10-11,(2012)
12)(財)日本自動車研究所:「総合効率とGHG排出の分析報告書」(2011年3月)
- 1.はじめに
- 2.自動車におけるプラスチック化の推移
- 3.地球温暖化防止のための方策
- 4.次世代自動車のおけるプラスチック材料
- 5.プラスチックにおける軽量化
- 6.高級感を追及する内装材
- 7.まとめ
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