MENU
SCROLL
DOWN

FUTURE STORY

排出する化学から、
活かす化学へ

CO₂を資源に変える 人工光合成プロジェクト

01

INTRODUCTION

2050年、二酸化炭素排出量をゼロにする。日本が向かう大きな目標へ向けて、企業や個人は、様々な取り組みを始めているところだ。身近な例から挙げれば、省エネを意識して電力使用量を減らしていくこと。太陽光や風力といった再生可能エネルギー活用の取り組みや、二酸化炭素をメタンへ変換して再利用しようとしている企業もある。

多くの試みがあるなか、三菱ケミカルが取り組んでいるのが、人工光合成プロジェクトだ。太陽光を利用して、CO₂をプラスチックなどの原料として活かしていくことを目指している。国家予算のつく、非常に大規模な研究開発プロジェクト。2012年の発足から、将来の社会実装までを、プロジェクト立ち上げ当時から携わっている、Tsutsuminai、Kariya、Sakamotoの3人に、それぞれの視点から語ってもらう。

MEMBER

  • S. Tsutsuminai

    S. Tsutsuminai

    2004年入社。石油化学プロセス用の触媒開発などを経て、人工光合成プロジェクトの立ち上げに携わる。プロジェクトの運営や全体の取りまとめを担当。

  • N. Kariya

    N. Kariya

    2006年入社。太陽電池開発やモノマー開発等様々なプロジェクトを経験したのち、本プロジェクト立ち上げに携わる。モジュール開発を担当。

  • N. Sakamoto

    N. Sakamoto

    2009年入社。C1化学と呼ばれるテーマを経験し、本プロジェクトにおいても、立ち上げ時から二酸化炭素の固定化技術開発を担当。現在は技術開発全体の取りまとめも。

太陽と水さえあれば、
CO₂を、どんどん資源へと
変えていける。

PARAGRAPH

日本で製造されている化学製品は、その95%が石油由来の原料に依存している現状がある。さらにCO₂排出量に関しては、製造業全体の20%以上が化学産業によるものだ。
化学産業は石油に依存していて、CO₂やプラスチックなど環境に悪いものを生み出している。そんな現状のイメージを払拭していく、新たな一手が、人工光合成プロジェクト。太陽光と水を活かし、CO₂を有効活用できるようにしていく「実現できればまさに夢のような技術」だと、プロジェクト全体の取りまとめを行うTsutsuminaiは語る。

S. Tsutsuminai:

人工光合成プロジェクトには、大きく3つのテーマがあります。まずひとつ目が、太陽光エネルギーを利用し、水(H₂O)を水素(H₂)と酸素(O₂)へと分解する光触媒と、そこで使用するリアクターモジュールの開発です。ふたつ目のテーマが、分離膜の開発。この分離膜を用いることで、最初に水を分解して発生した水素と酸素を、分離するのです。最後に、3つ目。合成触媒の開発です。分離膜を用いて取り出した水素と、二酸化炭素を触媒として用いて反応させることで、プラスチック等の原料となるオレフィンを合成する。つまり、太陽光を利用して二酸化炭素と水を資源として有効活用していくための研究開発に取り組んでいます。

人工光合成の概念図

人工光合成プロジェクトは、METI/NEDO※主導でプロジェクト化し、三菱ケミカルをはじめ、多くの企業や大学、研究機関が参画するナショナルプロジェクトだ。
※NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
※METI:経済産業省

S. Tsutsuminai:

アカデミア中心となって、触媒材料に関する技術開発を。私たち企業のメンバーが、それを工業化・商業化するために必要なモジュールの開発や運用方法を考える。これらを分担するフォーメーションで共同の研究開発を行っています。東京大学など、大学研究室チーム等から上がってくる実験結果は、つねに世界的な学術誌に掲載されるようなレベルの高いもの。プロジェクトを進める中でも、共同開発という形で刺激を受けたからこそ、前進を感じられた部分もありました。

夢のような技術も、
最初はただの夢物語だった。

PARAGRAPH

プロジェクトの発足は2012年だが、三菱ケミカル内では、前身となるプロジェクトが、その前から動き始めていた。前身プロジェクトの発足時から携わり続けているのが、モジュール開発を担当するKariyaだ。

N. Kariya:

最初は、三菱ケミカルが取り組むべき中長期的な研究開発テーマを探していくプロジェクトがあり、その中で、人工光合成プロジェクトが独立する形で発足しました。人工光合成プロジェクトとして始動したのは、2012年。最初の10年で技術の研究開発、2030年には大規模実験、2040年には社会実装を目指すものとして、始まっています。スタートは、10名程度の社内メンバーが携わっていました。

未来を劇的に変えるかもしれない、大規模なプロジェクト。しかし発足当時は、「本当に、ただの夢としか捉えられていない空気感もあった」とKariyaは言う。CO₂を活用して資源としていくことは、未だ「夢のような」技術だと思われていたのだ。

N. Kariya:

研究発表会を行っても、「夢がある仕事でいいよね」くらいの反応。絵空事の検証をしているような目で見られていたのかもしれません。実際に取り組んでいる身としても、形のないものに取り組んでいる気分でした。手元にあるものを改良して新たなものを生み出すわけではなく、まったくゼロからつくる。触媒には何が使えるのか、モジュールはどうするのか。ひとつも見当のつくものがない中での議論は、非常に抽象的で、先が見えず空疎に感じることもありました。

最初は夢物語だった人工光合成のプロジェクトだが、プロジェクト発足から5年が過ぎた頃から、社内外での空気感が変わってきたという。「根性論でやり抜くこともあった」と語るのは、Tsutsuminaiと同じく全体の統括に携わっているSakamotoだ。

N. Sakamoto:

研究開発というものは、本来、どういう結果になるかやってみなければわからないもの。しかし国家予算のつくプロジェクトですから、目標に対して結果が伴わなければ、続けられなくなってしまう恐れもあり、非常に苦しい思いでやっていた時期もありました。絵空事と言われる一方で、現実には目の前の目標がある。それに向かってとにかくやってみるということも多々ありました。
しかし続けているうちに、2010年代後半から、空気感が変わったように思います。社会の中で、環境配慮を意識した姿勢が一層強くなったことが背景にあるのかもしれません。「2050年にCO₂排出量ゼロ」という高い目標に対して、実現可能性のある大規模プロジェクトとして認知度が上がり、世間での期待と注目を集めるようになってきました。

環境問題への取り組みは、
ボランティアではない。
利益を生み、
経済を回すプロジェクトへ。

PARAGRAPH

社会からの注目度が変化する一方、第1のテーマに関わる、水からの水素製造においては、2019年に世界最高レベルとなる変換効率7%を達成するなど、技術実現に向けて着実な成果も目に見え始めている。今後プロジェクトチームが目指すのは、個別の技術を完成させ、社会実装に向けて動き出すことだ。
ただCO₂を減らすだけでなく、それを活用していく方法を考え、未来をつくっていける。そこに化学メーカーの強みがあると、Tsutsuminaiは考えている。

S. Tsutsuminai:

CO₂排出ゼロへ向け、手段は様々にあります。省エネを強化し、化石資源や電力を使わないこともそのひとつ。CO₂を回収して地中に埋めてしまおうという取り組みをしているところもあります。そのなかでCO₂発生量を抑えることや、その処分方法を考えるだけではなく、活用する視点で考えられるのが、私たち化学メーカーの強みではないでしょうか。私たちは、長年製品づくりを行ってきたノウハウもあり、H₂やCOなど危険とされる物質の扱いにも慣れている。物質の特性を考え、それをいかに製品にしていくか。その視点で環境問題に取り組むことができるのではないかと考えています。

目標は、2030年には大規模な実験を行い、2040年には社会実装を行うこと。大昔は太陽光発電も夢物語だったが、いまではメガソーラーパネルが各地で活躍する様が見られるように。人工光合成のための太陽光パネルも、2040年には、各地で並べられていることが期待できるかもしれない。ただしプロジェクトのメンバーが望むのは、あくまで商業的・工業的に利用可能な技術を開発していくことだ。

N. Sakamoto:

太陽光の下、パネルがズラッと並ぶ様子。いまであれば、それは太陽光発電を想像しますよね。しかし2040年に、そこから出てくるのは電気だけでなく、水素と酸素になっているかもしれない。ラボレベルではなく、実際に社会で使えるところまでが、私たちの思い描くところです。

N. Kariya:

社会で使えることが大事なのは、このプロジェクトがきちんと利益を出せる技術を生まないと意味がないからです。環境配慮がボランティアだったら、あとを追って取り組んでくれる企業や団体はありません。環境を考えることが、利益になる。経済を回すことにつながる。人工光合成プロジェクトでそれを示すことができればよいと思います。

CO₂やプラスチック。
環境に悪い
イメージだった化学が、
地球をよりよくする担い手に。

PARAGRAPH

人工光合成の技術が社会で実用化され、利益を生むものとなること。そういった取り組みを通じて変わるのは、社会の環境に対する姿勢だけではない。化学メーカーのイメージやあり方も、変えていくことこそ、プロジェクトが本当に着地するべきテーマなのだ。Tsutsuminai、Kariya、Sakamotoら、プロジェクトに関わるメンバーは、化学メーカーとしてつくっていくべき未来を、それぞれに描いている。

N. Kariya:

現在の化学は、社会の中で悪者になってしまったと思います。CO₂やプラスチックなど、地球にとって悪影響なものをドンドン生み出している存在だと、イメージがついてしまった。そんなイメージをも、私たちは変えていかなければなりません。

N. Sakamoto:

CO₂もプラスチックも、環境に悪いとは言うけれど、それらをまったくのゼロにして人間は生活をすることができません。だから、CO₂やプラスチックを生み出す存在だからこそ、それらの問題にどう解決策を示すか、技術を確立して、社会に還元していくことが必要です。

S. Tsutsuminai:

環境問題、とくにCO₂排出に関しては、社会の注目度も高く、技術イノベーションに大きな期待が寄せられていることを実感しています。これまでは、CO₂を排出するだけだった化学が、今度は、CO₂を活かす化学となれるチャンス。自分たちの得意なことで、社会に貢献できるのならば、化学メーカーとして、こんな嬉しいことはありません。CO₂排出がどんどん減り、CO₂がどんどん活かされるようになる世の中を目指して。私たちは20年後を見据えながら、日々の技術開発に取り組んでいます。

CLOSE
スマートフォンを
縦にしてご覧ください
I'm sorry.