自動車関連事業推進センター

自動車用熱可塑性エラストマーの開発動向3.オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)の概要

  オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO:Thermoplastic Olefinic Elastomer)は、PPやPE等のポリオレフィンをハードセグメントとし、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)などのゴム成分をソフトセグメントとするTPEである。またTPOは、ポリオレフィンとゴム成分のブレンドタイプ、それらの動的架橋タイプ(TPV:Themoplastic Vulcanizatesとして区別して呼ぶこともある)、及び重合タイプ(R-TPO:Reactor-TPO)の3タイプに大別できる。

  三菱化学(株)のTPOである「サーモラン™」および「TREXPRENE™」は、前者の2タイプに該当する。ブレンドタイプ(中高硬度シリーズ)と動的架橋タイプ(低硬度シリーズ)があり、それぞれに半硬質から柔軟なものまでの幅広いグレードラインナップを有している。特に、動的架橋タイプについては、圧縮永久歪みや押出外観を改良した「3000シリーズ」に加え各種自動車部品の要求性能に対応した[QTシリーズ]も上市している。動的架橋タイプのモルフォジーを図1に示す。なお、重合タイプも「ゼラス™」という商品名で上市しているが、詳細な説明は本稿では省略する。

3.1オレフィン系熱可塑性エラストマー
「サーモラン™・ブレンドタイプ」の概要

  「サーモラン™・ブレンドタイプ」は、ゴムと樹脂の中間に位置する材料であり、比重が0.9と小さい上、低温衝撃性、耐候性、及び成形性に優れるという特徴がある。主な自動車部品用途としては、エアバッグカバー、ケーブル被覆材、モール類、マッドガード等が挙げられる。様々な要求に対応したグレードラインナップの中で、ユニークな特性を有する「低線膨張グレード」について紹介する。

3.1.1「サーモラン™低線膨張グレード」の概要

  自動車のエアバッグカバー等の内装部品やバンパやマッドガード等の外装部品には、機械的強度、成形性、外観等の高度な性能が要求されている。更に、部品の大型化やボディの一部との一体化に伴い低線膨張率化など寸法安定性の要求が一層厳しくなってきている。「サーモラン™低線膨張グレード」は、これらの高度な要求に対応する「高性能化グレード」である。

  樹脂の線膨張率を下げるには、繊維状フィラー(ガラス繊維、ウィスカー等)や板状フィラー(タルク等)を充填することが一般的な手法であるが、その反面、製品の外観悪化や重量増といった問題を招く可能性もあった。本「低線膨張グレード」は、PPとゴム成分の複合材料系において、配合するゴムの分子量(溶融粘度)によって線膨張率が変化する現象に着目し、その独自解析により得られたもので、ゴム成分の分散形態を制御する手法を使って開発されたものである。その結果、フィラーを用いることなく、R-RIM(Reinforced Reaction Injection Molding)ウレタン並みの低線膨張率の達成が可能となった。

  本「低線膨張グレード」は、射出プロセスまで考慮した材料設計技術により、ゴムの分散形態を制御することで線膨張率の低下を図ったものである。この配合材料の射出成形品の形態は、各成分の溶融粘度比により、マトリックスのPPとドメインのゴム成分が、球状構造から層状構造、更には両者の連続構造まで変化する。PPとゴム成分の溶融粘度比が特定の範囲において、射出成形時の剪断応力によりゴム成分が製品中で厚み方向につぶれた偏平構造となる(図2参照)。

  これが、「低線膨張グレード」の材料設計のキーテクノロジーである。特定のゴムとPPを組み合わせた材料において、ゴム含量がある領域で非晶性樹脂並みの線膨張率(5×10-5/℃~9×10-5/℃)を達成した。流動(剪断応力)を伴わない圧縮成形品における線膨張率は、一般的なPPより大きく18.7×10-5/℃を示した。「低線膨張グレード」では、射出成形により引き延ばされ偏平状になったゴム相に働く残留歪および形状効果から、熱膨張率は同じであっても板厚方向への膨張が容易に起こり、逆に、射出方向への膨張は抑制され、結果として、優れた寸法特性が発現することになる。偏平度が大きくなるにしたがい、線膨張率は小さくなる。

以上述べたPPとゴム成分の流動性を効果的にバランスさせた形態制御により開発された「低線膨張グレード」は、自動車のエアバッグカバー等の内装部品やバンパやマッドガード等の外装部品、他の大型製品にも適用されている。

3.2オレフィン系熱可塑性エラストマー
「サーモラン™動的架橋タイプ3000シリーズ」の概要

  「サーモラン™3000シリーズ」は、ゴム成分として、架橋反応のためにEPMの代わりにジエン成分を含むEPDMを主に用い、かつEPDMの部分架橋により多量の軟化剤を配合することができることから、圧縮永久歪み、柔軟性、耐熱性、耐油性にも優れ、加硫ゴムや軟質PVC代替が進んできている。また押出成形やカレンダー成形性にも優れ、非常に平滑な外観のシートが得られる。

  近年、工程合理化やリサイクルの問題から、エラストマーと硬質樹脂との複合化(2層射出成形法)が、気密性や防水性、成形体の衝撃緩和、あるいは肌触り改良を目的に行われることが多くなっている。特にTPVは、PPなどのオレフィン系の硬質樹脂と多層化、積層化することが以前から広く行われているが、本「サーモラン™3000シリーズ」は射出成形性にも優れ、オレフィン系樹脂との二色成形においても感触の良好な成形品が得られる。

  なお、非オレフィン系硬質樹脂(ABS、ポリカーボネート等)と多層化、積層化する場合には、現在、TPEEの「プリマロイ™」が、柔軟性(硬度Duro-A45~)と圧縮永久歪み(55~65%)が良好な上に、熱融着性や耐摩耗性にも優れることから、現在幅広い用途に使用されている。

  表3に「サーモラン™3000シリーズ」の物性表を示す。主な用途としては、内装表皮材、グラスランチャンネル、各種グリップ、土木シート等が挙げられる。図3に用途例である自動車ドア表皮を示す。


3.3オレフィン系熱可塑性エラストマー
「TREXPRENE™動的架橋タイプ」の概要

  「TREXPRENE™」は、一部ブレンドタイプもあるものの主体は、主にハードセグメントにPP、ソフトセグメントにジエン成分を含むEPDMを使用したTPVであり、部分架橋及び完全架橋タイプがラインナップされている。広範囲の硬度領域(Duro-A35~Duro-D50)と様々な調色対応が可能であり、射出成形、押出成形、ブロー成形、サーモフォーミング成形などといった種々の成形方法に対応できる材料である。表4に「TREXPRENE™」の物性表を示す。

  また、通常のTPVが有する優れた耐候性、耐薬品性、圧縮永久歪みといった特徴を保持しつつ、高度な耐摩耗性、耐傷付性といった機能性を付与したグレードも存在しており、自動車のみならず他用途にも幅広く使用されている。


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  • ポリエステル系熱可塑性エラストマー プリマロイ™は2017年4月にテファブロック™へブランド統合しています。

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