自動車関連事業推進センター

自動車用熱可塑性エラストマーの開発動向4.スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)の概要

  スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS:Thermoplastic Styrenic Elastomer)は、柔軟性、弾力性に優れ、最もゴム的性状を持つTPEである。ハードセグメントはポリスチレン(PS)で、ソフトセグメントの違いにより、SBS(S:スチレン、B:ブタジエン)、SIS(I:イソプレン)と、これらを水添したSEBS(E:エチレン、B:ブチレン)、SEPS(P:プロピレン)などに大別される。SBSはアスファルト改質や履物、SISは粘着剤や接着剤が主な用途であり、他方、SEBSとSEPSは、耐熱性、耐候性がよいことから軟質成形材料、ポリオレフィンやPSなどの樹脂改質、接着剤が主な用途である。このうち軟質成形材料としては、主にポリオレフィンや軟化剤とコンパウンドしたものが使用され、成形性、柔軟性、機械強度等のバランスに優れることから、自動車用途のみならず日用品から家電まで幅広い用途に使用されている。また、これらをコンパウンドした材料もTPSとして位置付けられている。

  三菱化学㈱は、TPSとして「ラバロン™」と「TEFABLOC™」を上市している。「ラバロン™」は、コンパウンドタイプのTPSであり、成形性に優れる一般・工業部品用の「Sシリーズ」と、食品・医療衛生用途に適する「Mシリーズ」を標準グレードとするほか、主に自動車内外装用途向けに耐摩耗性、耐薬品性、触感といった特殊機能を付与した「ラバロン™QEシリーズ」や良好な発泡性を持つ「発泡用ラバロン™」を開発し、ラインナップしている。自動車向けの両グレードは、その特性により自動車内装パネル部材の新規射出成形工法に適応した材料設計となっており、各種自動車内装部品への更なる展開が期待されている。一方、後述する「TEFABLOC™」は、優れた弾性回復性能や低光沢外観などを特徴としている。

4.1自動車内装パネル部材の射出成形工法の概要

  現在、インパネ、ドアトリム、アームレスト、コンソールボックスなどの用途に使用されている自動車内装パネル部材は、主に、A:ハードタイプ、B:微ソフトタイプ、C:ソフトタイプの3種類に大別される(表5)。従来技術としては、具体的には、A:ハードタイプはPP等を射出成形したもの、またはその表面にコーティングや塗装を施した部材、B:微ソフトタイプは、PP等の基材に対し、トップコート処理が施されたTPOと発泡PEの積層シートを真空成形し被覆した部材、C:ソフトタイプは、スラッシュ成形による表皮と射出成形によるPP等基材の間へポリウレタン(PU)を発泡注入させた3種類の材料積層の部材である。

  高級車系や同じ車系内の上位グレードの手に触れる内装パネル部材においては、上質な質感が求められるケースが多く、ソフト感もしくは微ソフト感を有する部材が積極的に採用されている。しかし一方で、設備の導入、部品構成の複雑化、工程数の増加から部品コストが高くなるという問題が存在する。例えば、B:微ソフトタイプでは、基材用の射出成形機、真空成形機、接着積層機等の接着機や端部を処理するための設備、トリミング設備などの、また、C:ソフトタイプでは、基材用の射出成形機、スラッシュ成形機や多数の金型、フォーム注入機、トリミング設備などの、各々多大な設備投資が必要であり、既存設備の更新時や新興国を初めとする海外への進出時、生産台数の設定に大きな障害となっている。

  そこで、上述したB:微ソフトタイプおよびC:ソフトタイプの工数を大幅に簡略化したコストダウン手法として、以下の3つの新規射出成形工法が挙げられる(図4)。

  1. (1)B:微ソフトタイプパネル部材成形に適した射出薄肉表皮2色成形工法
      PP基材とTPS表皮材との2色射出成形により、射出成形1工程で表皮、基材の一体成型品を得る工法である(図5)
    本工法は、後処理が不要になることのみならず、50%以上とも言われている真空成形表皮の廃材の大幅な低減、製造工程での廃材「ゼロ」、解体時のシュレッダーダストの軽減も可能で、環境負荷低減に多大な効果がある。更に、従来の真空成形用シートでは困難であった多色化においても、表皮材料の着色が容易であることより、様々なカラーバリエーションに対応することが可能となる。また、射出成形では、金型のシボ転写が忠実にできることから、真空成形の際にシボが消失するという品質の低下を避けることも可能である。)。
  2. (2)C:ソフトタイプパネル部材成形に適した射出薄肉表皮成形工法(スラッシュ表皮の代替)
      表皮と基材の間にポリウレタンフォーム(PUF)でソフト部材を形成する工法において、従来のパウダースラッシュ法等で成形される表皮を、TPSを用いて射出成形法で成形する工法である。

      基材と同じ射出成形機で表皮を成形することにより、スラッシュ成形では困難であった肉厚の正確な調整が可能となり、更に、フォーム注入工程で必要なシール部の削減、その後のトリミングに対応した形状設計やトリミング最小限化による廃材や工数の削減、ハイサイクル化が期待できる。また、スラッシュ設備が不要となって設備投資が大幅に削減できるほか、従来工法では必要とされていた設備設置スペースの縮小が可能となる。生産台数の少ない車系や生産量の増減に容易に対応できるということも含め、多大なメリットが予想される。
  3. (3)C:ソフトタイプパネル部材成形に適した射出発泡表皮2色成形工法
      射出成形によりPP基材を成形した後、表皮となるTPSを2色成形し、更に金型内でTPSを発泡させることで、発泡層を有した表皮と基材の一体成形品を得る工法である(図6)。

      エラストマーは、金型に接した部分は発泡しない薄い表皮層を、また、中心部分は発泡しソフト部材層を形成するため、本工法は、基材、発泡層、表皮層を有した製品が1工程で完成する画期的な工法でもある。本工法は、従来のスラッシュ成形表皮とPUF発泡成形で製造される部品と同等以上の品質を実現できる上に、基材成形、表皮成形、発泡成形の各工程での品質のバラツキや不良率の相互悪化、発泡成形のシール作業、成形後のトリミング等々の幾重にも及ぶ煩雑な工程を要する従来のスラッシュ成形工法が抱える課題に対し、1工程化、品質の安定化という面でも大きなメリットがある。

  これらの3つの工法は、工数削減、廃材の低減、品質安定化という観点では確かに画期的な工法といえるが、一方で部材には、インパネやドアトリム等の大型部材を射出成形するためには高い流動性が要求されるほか、内装部品用にはウェルドラインやシボ転写性等の外観性能が求められ、また表皮用には、耐摩耗性、耐薬品性等の機能に加え、接触部品としての触感・質感といった特殊な性能も必要とされる。しかしながら、本工法で成形可能な従来のTPEは、低分子量化により高流動性を付与されたものがほとんどであり、その結果、タック感、べたつき感といった触感の悪化、耐摩耗性の低下につながり、更に、耐熱劣化試験後の著しい光沢上昇等の問題もあり、自動車内装パネル表皮部材としての要求性能を満たすことができなかった。一方、高分子量化されたTPEは、機械的特性も向上し、耐熱劣化試験後の光沢変化の抑制も可能であるが、反面、流動性の著しい低下を招き、ウェルドラインやフローマーク等の外観不良の発生、射出成形性の悪化により、自動車内装パネル表皮部材のような薄肉で大型の製品を成形することが困難であった。

  三菱化学(株)は、かかる課題解決に取り組んで後述のTPS「ラバロン™QEシリーズ」及び「発泡用ラバロン™」の開発・上市に至り、その結果、上述の新規射出工法の適用が可能となった(表6)。

4.2スチレン系熱可塑性エラストマー
「ラバロン™QEシリーズ」「発泡用ラバロン™」の概要

ラバロン™」は、スチレンブロック共重合体(SBC:Styrenic Block Copolymers)をベースに、良好な柔軟性と各種機能を付与したTPSである。また押出成形、射出成形などの汎用成形方法のみならず、上述した新規射出成形工法にも適応した各種グレードを取り揃えており、成形時に生じるロス材のリサイクルも可能である。ただ従来のTPSの汎用グレードは、耐摩耗性、耐傷付性、耐油性が各種自動車用内装部品規格に不適合で、エラストマー特有のグリッピー(スリップしない)な触感のため、自動車部材向けには、カップホルダー用滑り止め、各種可動部分の目隠しカバーや安全確保用カバー、衝撃保護カバーとしての使用に留まっていた。
  三菱化学(株)が開発した「ラバロン™QE」は、独自のポリマー組成とコンパウンド技術や化学修飾改質技術により、高度な耐摩耗性、耐傷付性、良好な触感を満たし、塗装やコーティングといった表面処理を施すことなく各種自動車内装部品、例えば、ハンドブレーキグリップカバー、シフトノブ、アシストグリップ等のグリップ類、更には、最も高度な耐摩耗性が要求されるフットブレーキペダルパッド等の足元周辺部材などの用途に多く採用されている。また、これらの特徴を高いレベルで維持しながら、耐熱性を有する高流動性グレードもラインナップしている。このグレードは、大型部材の射出成形性、シボ形状の転写性が大幅に向上することから、射出薄肉表皮成形工法や射出薄肉表皮2色成形工法等の無塗装射出成形表皮材としての適用が可能である(図7)。

  一方、「発泡用ラバロン™」は、特殊なエラストマー配合技術により、高発泡倍率化、発泡安定性、高流動性、PP基材との融着性等に優れ、射出発泡表皮2色成形工法における安定生産化が図れ、高品質な自動車内装材の良クッション性ソフト部材の製品化が可能となった(図8)。

  更に、急速加熱冷却(ヒート&クール)を可能とするプラスチック成形用電鋳金型を使用する工法を用いることで、更なる表皮外観の向上や表皮の薄肉化が可能となる(図9)。

4.3スチレン系熱可塑性エラストマー
「TEFABLOC™」の概要

  「TEFABLOC™」は、SBC(Styrenic Block Copolymers)技術をベースに、架橋グレード(TPV-S)、非架橋グレードがあり、高いリサイクル性と優れた耐候性、弾性回復性能や低光沢などを特徴としている。加硫ゴム(EPDM)代替部材として、射出、押出の成形方法を問わず、主に欧州系自動車メーカーのシール用途であるグラスランチャンネル、ベルトモール、エンキャップシュレーション、エアバッグカバー等の多くの部材に使用されている。中でもグラスランチャンネルは、押出成形部分(基材部)と射出成形部分(コーナー部)が複合した設計となるため、各々異なる光沢を有する材料が使用されることが多く、外観上のアンバランスが生じる可能性がある。「TEFABLOC™」は、射出成形品と押出成形品の光沢の差が小さいため、良好な外観とシール機能を両立させることが可能である。またEPDMは長期間使用すると耐候劣化で変色が起こるのに対し、「TEFABLOC™」は長期間その外観を維持することが出来る。表7に「TEFABLOC™」の物性表を示す。


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  • スチレン系熱可塑性エラストマー ラバロン™は2017年4月にテファブロック™へブランド統合しています。

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