1.はじめに

   自動車の衝突安全基準の強化に伴って、フレーム構造の見直しや予防安全装置の搭載などが求められてきたことから、過去30年間で平均重量は400kg程度増加した。今後も安全基準の更なる強化や電装化が進む中、より一層車体の重量増を抑える必要が出てきている。

  軽量化に当たっては、重量の多くを占める鋼材に代替可能なアルミニウムや樹脂など軽量素材の使用が増加し、特に炭素繊維複合材料(CFRP)が威力を発揮するが、生産台数が限定的な高級車が主流で、量産車への本格的な実用化の域には達していない。量産車両に搭載するには、量産性が課題となっていて、短時間サイクルタイム工法の開発と、その工法に最適なCFRPが求められている。

  欧州では、短時間サイクルタイムを達成した量産工法の一つであるRTM(Resin Transfer Molding)工法が実用化されており、BMW社の電気自動車に搭載されているが、外装パネルの塗装外観に性能が不十分であることや、より複雑な部品への形状対応性、成形性が求められている。

  MCCが開発した中量生産(~3,000台/月)に対応できるハイサイクルCFRP成形工法「PCM(Prepreg Compression Molding)工法」について、以下に紹介する。

2.PCM工法

  PCM工法は、熱硬化系エポキシ樹脂(硬化時間:2~5分)をCFに予め含浸させた速硬化プリプレグを自動化プロセスにてプリフォーム化した後、高温(型温:130~150℃)高圧(プレス圧:3~10MPa)下で、ハイサイクル成形するCFRP工法である(図5)。

  技術的な優位性としては、①成形サイクルタイムが短く、良好な外観が得られる、②ドライ・ファイバーを取り扱わない、③VOC(Volatile Organic Compound;揮発性有機化合物)がフリー、④金属やCF-SMCなどとのハイブリッド部品が可能、⑤構造部品並びに外装部品を製造するための性能を有する、ことなどがある。

  また、PCM工法ではACと同等な高性能で均質な部材/部品が製造できることから、試作時は安価な型を使用できるAC工法で製品や諸条件を確立し、スケールアップ量産時のPCMプレス成形への移行が容易にできる。その他、既設の油圧プレス機やサーボプレス成形への移行が容易にできる。その他、既設の油圧プレス機やサーボプレス装置が利用可能であり、ガラス繊維-SMCで培われた金型技術も利用できる。

3.プレス成形用速硬化プリプレグ

  本プリプレグの特徴は、成形温度における樹脂粘度をプレス成形に最適化するために高温硬化時に最適化するために高温硬化時に樹脂があまり流動しないように粘度を高くした樹脂組成に制御していることにある(図6)。

  サイクルタイムは、端部まで成形圧力が伝わるような硬化特性を最適化するためのプレス成形時の硬化時間と、形状を安定させるための樹脂粘度より決まる。一般的なRTMや従来のプリプレグ樹脂と比較して硬化挙動が大きく改良され、硬化時間が短時間になっている(図7)。

  プレス成形中の樹脂粘度に起因する成形欠陥は、高粘度であれば①機械的物性のばらつき、②繊維の乱れ、③板厚の不均一、④外観不良(ピンホール、巣穴等)であり、低粘度であれば①樹脂流出、②機械的物性のばらつき、③繊維の乱れ、④板厚の不均一、⑤外観不良(ピンホール,巣穴等)、⑥脱型不良が挙げられる。

  ピンホールなどの欠陥を無くし、クラス A外観の塗装品質を得られるような成形品質を達成するために、バランスのとれた樹脂粘度を制御する技術が必要不可欠で、本プリプレグの強みの一つである。

  本プリプレグは、外装部品/外板用途#360/#361と構造部材用途#367/#368の2種類に大別できる。これらのUD(Unidirectional)プリプレグの特性を表1に示す。

  特に、外板用途#360/#361は、ガラス転移点温度167℃(成形温度:140℃,成形時間:5分)で高耐熱性を示し、耐吸湿特性(図8)にも優れている。このことにより、気候変動試験後の表面外観は従来の工法に比べて乱れが小さい。

4.プレス成形工法

  プレス成形工程は、①プリフォームを所定の成形温度に加温した金型(下型)に投入し、②金型を閉める間に素早く真空脱気しながら型締めを行い,硬化時間まで所定圧力と温度を維持し、③硬化終了後に金型を開いて成形品を脱型するプロセスである。場合によっては脱型後の冷却時に成形品が反らないように冷却冶具で固定する必要がある。

  速硬化プリプレグの硬化解析、すなわちプリプレグの温度カーブ(図9)で分るように、プリプレグを金型に投入し、素早く金型温度に達した後に硬化反応が始まる。当然、プリプレグ温度が金型温度になる時間が短いためにプレス成形型でプリフォームとプレス成形を同時に実施することはできない。

  成形品に影響を及ぼすプレス成形の因子は、①金型温度、②成形圧力、③成形圧力に到達するまでの時間、④真空脱気の到達圧とそのタイミングなどが挙げられる。

  金型温度は、硬化自体に影響ない範囲での温度変化において、温度が低すぎると樹脂の流動時間が長くなり、樹脂フローが過剰で、温度が高すぎると樹脂の流動時間が短くなり、端部に欠肉が発生する。

  成形圧力は、圧力が低すぎると成形品表面にピンポール、内部にボイドが発生、端部に欠肉が発生する可能性があり、圧力が高すぎると樹脂フローが過剰で、繊維蛇行が顕著になる。

  成形圧力に到達するまでの時間、つまりプリフォームを金型に投入してから成形圧力に到達するまでの所要時間は、時間が長すぎるとプリプレグの反応が始まり、成形時の流動性や物性の低下、特に厚みがある場合に金型面とその反対面で流動性に違いが起こり、成形品表面に影響を与える。

  特に、速硬化プリプレグを取り扱うプレス成形工程は、成形品の形状により各成形因子の影響度合いが変わることに注意が必要である。

5.採用実績

独Audi社 「RS5 Coupé」のルーフ

   Audi RS5 Coupéは、Audi A5シリーズのトップモデルであり、ドイツのMCC社グループで自動車用のCFRP部品メーカーであるWethje Carbon Composites GmbHがPCM工法でルーフに成形し、Audi社に納入している。

  PCM成型品はUD材では表面平滑性が高いためアウターはクラスA塗装が可能で、外板部材としても活用できていたが、本系では品質要求レベルが高いアウターを塗装ではなく、カーボン織物仕様としたルーフであり、更なる工法の改良が必要であった。

日産自動社 「GT-R」のトランクリッド

  • アウターパネル:炭素繊維一方向プリプレグ、5層(直交積層)、厚さ 1.1㎜、車体色塗装
  • インナーパネル:3K平織ファブリックプリプレグ、3層、厚さ 0.6㎜、クリアコート

エポキシ系接着剤による接合

6.今後の展望

  PCM工法は、3つの要素技術

  1. 速硬化プリプレグ/CF-SMC
  2. プリフォーム技術
  3. 高圧プレス成形技術

を更にブラシュ・アップすることにより下記のような多様な材料の組み合わせによる【ハイブリッド成形】も可能になり、フレーム・骨格部品等を含めた新たな部品の設計にもつながる。

  • 速硬化プリプレグ+CF-SMC+金属インサート(継手)
  • 速硬化プリプレグ+接着フィルム/シート+金属プレート
  • 速硬化プリプレグ+発砲コア材+速硬化プリプレグ/CF-SMC
  • 速硬化プリプレグ+ゴム/樹脂シート+速硬化プリプレグ/金属プレート

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