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植物由来原料イソソルバイドを用いた透明バイオエンプラDURABIO™3.DURABIO™の製造法

  ビスフェノールA を原料とする芳香族ポリカーボネート(以下PC)は、ビスフェノールA のアルカリ水溶液と塩化メチレンからなる二相系で、ビスフェノールA のアルカリ金属塩(通常はナトリウム塩)とカルボニルジクロライド(慣用名:ホスゲン)を反応させる界面重合法で製造されることが多い。一方、アルカリ金属塩を形成しないイソソルバイドは、界面法でPC 樹脂を製造することは困難である4)

  ビスフェノールA 等の芳香族ジオールや1級脂肪族ジオールは、通常、ジフェニルカーボネートとエステル交換し、高真空下で副生するフェノールを系外に除くことにより重合体を得ることができる。一方、一般的な2級脂肪族ジオールや2級脂環式ジオールは、その低い酸性度と立体障害により、ジフェニルカーボネートとエステル交換し難く、重合体を得ることは困難である。しかし、イソソルバイドではエーテル結合を含む複素環構造が水酸基を活性化し、2級ジオールにも関わらず高い酸性度を示し5)、ジフェニルカーボネートとエステル交換させて高分子量重合体を得ることができる。この重合法は一般的にはエステル交換法または溶融重合法(溶融法)と呼ばれており、界面法のように塩化メチレン溶媒を用いないことから、環境負荷の小さいことが特長である。エステル交換法の触媒としては、ビスフェノールA等の芳香族ジオールでは、一般的にナトリウムやセシウム等の1族の金属(塩)やオニウムなどのハードな塩基性触媒が用いられる。一方、イソソルバイドでは、カルシウムやマグネシウム等の比較的ソフトな塩基性を示す2族の金属(塩)が高い重合活性を示す。これは、酸性度の高いフェノール性水酸基を有するビスフェノールA等の場合、ハードな塩基性触媒がフェノラートアニオンを生成させ、これがジフェニルカーボネートのカルボニル炭素を攻撃して重合が進行するのに対し、酸性度の低いイソソルバイドの場合、ソフトな塩基性触媒がジフェニルカーボネートのカルボニル基の分極を促して、δ+性を帯びたカルボニル炭素にイソソルバイドの酸素が求核的に攻撃して重合が進行することが理由と推測される(図2)。

  DURABIO™(デュラビオ™)の重合は、原料であるイソソルバイドと共重合成分である脂環式ジオール、及びジフェニルカーボネートを溶融混合させた後、前記触媒の存在下で、副生するフェノールを減圧下で系外に除くことにより進行する。この時、初期段階から高温、高真空下で重合を実施すると、原料が未反応のまま系外に留出し、ジオール成分とジフェニルカーボネートのモルバランスが崩れて、重合の進行が途中で停止することがあるため、重合初期では比較的低温、低真空でオリゴマー化を進める。一方、重合後期では比較的高温、高真空で系内のフェノール濃度を下げ、平衡を重合側にずらしながら高分子量化を進める。工業的には、重合初期と後期で反応条件の異なる複数の反応器を用いて行われる6、7)

  イソソルバイドから誘導される重合体は、PCに比べ高温では着色しやすいが、平衡定数がPCより大きいため、触媒の適正な選択により、低温で高分子量化させることが可能である。また、副生するフェノールは、ジフェニルカーボネートの原料として再使用することで、排出物を出すことなく完全閉サイクルでの製造が可能である。

DURABIO™(デュラビオ) 製品詳細[別窓表示]


文献
1) F. Fenouillota et al., Prog. Polym. Sci., 35, 578(2010)
2) 駒谷隆志ほか, 高分子, 61, 203(2012)
3) 藤通昭ほか, ポリカーボネート共重合体及びその製造方法, 特許第5532531号
4) S. Chatti et al., Macromolecules, 39, 9064(2006)
5) S. W. Karickhoff et al., Quant. Struc. Act. Rel., 14, 348(1995)
6) 並木慎悟ほか, ポリカーボネート樹脂, 特許第4868083 号
7) 並木慎悟ほか, ポリカーボネート樹脂, 特許第4868084 号
8) KAITEKI 経営:三菱ケミカルホールディングス
    https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/kaiteki_management/

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