自動車関連事業推進センター

1.はじめに

アクリプレン™は、三菱ケミカル(株)(以下、MCCとする)のポリマー設計技術と薄膜成形技術とを組み合わせて開発されたアクリル樹脂フィルムである。アクリル樹脂の特長である高い透明性と優れた耐候性に加えて適度な柔軟性を有しており、熱成形性やラミネート加工性にも優れている。現在、アクリプレン™は、建材化粧シートのトップフィルム、道路標識などの反射材用フィルム、塗装代替の加飾用フィルムなど幅広い分野で使用されている。

 自動車加飾の分野では、以前から木目調や金属調など本物の材料に意匠や質感を近づけるため、アクリル樹脂フィルム(以下、三次元加飾フィルムと称す)を用いた加飾フィルムが自動車内装部品に採用されている。特に近年は、先進各国に加えて新興国でも製造工程における環境負荷物質低減の動きが進んでおり、塗装の代替材としてアクリル樹脂フィルムの採用が拡大している。また、自動車外装としても、ツートンカラーのルーフ用加飾フィルムや電波透過性を有する金属調加飾フィルムへの使用も広がっており、今後の拡大が期待されている。

2.三次元加飾用アクリプレン™の特徴

 三次元加飾用アクリプレン™は、透明フィルム、艶消しフィルム、及び、耐薬品性フィルムの各グレードをラインナップしており、以下の特長を有している。

  1. 熱成形性:加熱状態において、比較的小さな応力で変形に追従でき、十分な伸度を有する(図1)。
  2. 表面平滑性:意匠欠陥が少なく、印刷・蒸着などによる高精細な意匠付与が可能である。
  3. 表面特性:良好な耐擦り傷性を有し、樹脂成形部材の表皮材として使用できる。

 これらの特長を有する三次元加飾用アクリプレン™は、ユーザー先にて加飾フィルムあるいは加飾積層シートの構成(図2)に加工され、インモールドラミネーション成形工法、フィルムインサート成形工法、あるいは、真空・圧着成形工法と一般に呼ばれる成形同時加飾プロセスを適用することで、比較的深い絞り形状の樹脂成形部材にも加飾を施すことができるのと同時に、塗装工程を削減することができる。

 また、塗装では多工程を必要とする50μm以上の厚みのある表皮層も、フィルム厚みの設定により容易に得ることができ、樹脂成形部材に奥行き感を与え高級感の演出が可能である。以下では、三次元加飾用アクリプレン™の各グレードを紹介する。


  • 図1.アクリプレン™の熱成形性
  • 図2.加飾フィルム/加飾積層シート構成例

3.透明フィルムグレード

 透明フィルムとしては、スタンダードグレードである「HBS010P」、予備成形(プレフォーミング)後に金型内で樹脂と一体成形するフィルムインサート成形工法に適した、靱性に優れたグレードである「HBA002P」をラインナップしている。


  • 表1.アクリプレン™の一般特性(代表値)

4.艶消しフィルムグレード

 艶消しフィルムとしては、上品な質感を表現するため光沢の無いフィルムを求めるユーザーに提案しているもので、艶消し層と透明層とを共押出したフィルム「MBS121E/MBS123E」をラインナップしている。

 艶消し剤配合樹脂の表層と、成形性に優れた透明樹脂の裏層とを共押出した2種2層フィルムで、表面の光沢を抑える一方で、裏面は平滑性が高いため、単層の艶消しフィルムに比べ、印刷適性やラミネート適性が良好である。また、比較的ヘーズが低いため、加飾フィルムにおける印刷柄の視認性が高い特長を有する。

 押出成形で艶消しフィルムを製膜する方法としては、樹脂に無機フィラーや架橋粒子ポリマーなどを配合することが一般的であるが、アクリプレン™は樹脂の相溶性を制御した独自の艶消し剤の採用によって、一般的な艶消し剤を使用したものに比べて表面がきめ細かく、しっとりとした質感となっている。

5.耐薬品性フィルムグレード

 自動車内外装部材用途においては、近年、耐薬品性に対する要望が年々高まっており、その要望に応えるべく、耐薬品性フィルムとしては、耐薬品層と透明層とを共押出したフィルム「FBS006/開発品A」をラインナップしている。図3は、筒状の枠内に薬品を満たして規定条件で薬品試験を実施した後の外観であり、薬品が浸潤することで表面の変形が引き起こされる。

 耐薬品性能は耐薬品性の良好なフッ素系樹脂を表層に使用することで向上させることができる。しかしながら、結晶性樹脂であるフッ素系樹脂由来のヘーズによって、印刷柄の視認性が低下するという課題があった。これに対してMCCは、耐薬品層の樹脂設計を最適化することで、耐薬品性とヘーズ値との両立を図った開発品Aを提案している。


  • 図3.耐薬品試験後の外観例(左:開発品A、右:HBS010P)

6.今後の展望

 三次元加飾用アクリプレン™は、自動車内外装部材の加飾フィルムとして多くのユーザーで採用されているものの、耐薬品性向上など、年々、市場の品質要求・物性要求は高くなってきている。今後も自動車部材用加飾フィルム市場は成長が見込まれており、MCCは顧客の要望に応えるべく、更なる新商品の開発、生産技術の高度化を進めていきたい。

アクリプレン™製品ページ

    <おこわり>

  • 本Automotive Materials誌(以下「本紙」といいます。)に掲載しているすべての情報(商標、ロゴマークなどを含む)は、各国の著作権法、商標権、各種条約及びその他の法律で保護されています。発行人からの事前の承諾を得ることなく、私的使用その他法律によって明示的に認められる範囲を超えて、これらの情報を使用(複製、送信、頒布、改変、販売、出版、転用、掲示など)することはできません。
    又、本誌をご利用になったことにより生じるいかなる損害についても、一切の責任を負いませんので、予めご了承ください。
  • 著作権の関係上、写真・図表は掲載しておりません。写真・図表を希望の方はお問合せフォームに必要事項を入力してご請求ください。
    発送に数日かかる場合がありますので、予めご了承ください。なお、一回につき一号とさせていただきます。
  • 内容はすべて発行当時のものです。名称やお問い合わせ先など、変更となっている場合がありますので、予めご了承ください。

自動車関連事業推進センター トップページへ