三菱ケミカルグループ株式会社

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化学業界が力を結集して取り組む「共同物流」<後編>

サプライチェーン
化学業界が力を結集して取り組む
「共同物流」<後編>

March 21, 2024
 / TEXT BY MCG
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。
※本ページにおいて、「三菱ケミカルグループ社」および「三菱ケミカルグループ(MCGグループ)」は三菱ケミカルグループ株式会社とそのグループ会社を指します。

経済産業省・国土交通省が主導する「フィジカルインターネット実現会議」内に設置された「化学品ワーキンググループ」の事務局メンバーである三菱ケミカルグループ、 三井化学、東ソー、東レの4社が集まり、化学業界による「共同物流」について意見交換。前編では、「共同物流」の必要性、ワーキンググループ設立の経緯と座組みについてレポートしました。後編では、ワーキンググループが取り組むテーマや、今後の展望について話を聞きました。業界全体で取り組む「共同物流」の先にある未来の姿とは。 <前編はこちら>

メンバー
■メンバー(左から順に) ※敬称略
百合 英憲東ソー株式会社 購買・物流部 物流グループリーダー
水津 知之東レ株式会社 購買・物流部門 物流部長
依田 馨三井化学株式会社 デジタルトランスフォーメーション推進本部 物流部長
大島 弘三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 企画戦略部長
林 寿樹三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長

「ホワイト物流の実現」と「商慣行の改善」を目指す

今までにない使命感と期待感でスタートした化学品ワーキンググループ。現在、グループで議論を重ねている課題とソリューションは多岐にわたり、19もの分科会が活発に動いています。単に物流リソースを共同化・共有化するだけにはとどまらない活動について話を聞きました。

東レ 水津: 2024年問題とリンクする重要なテーマが「ホワイト物流の実現」です。ドライバーの負担を減らして働きやすい環境を整備するために多くの取り組みが進行しているなか、東レは業界団体を含め化学メーカーが20社ほど集まっている「荷待ち分科会」のリーダーを務めています。政府発行のガイドラインで主に求められているのは、①荷待ち時間の把握 ②荷待ち時間の2時間(達成している場合は1時間)以内への抑制 ③入出荷業務の効率化に資する機材等の配置という3点です。

時間の把握はもちろんのこと、多くの企業が自社工場への入場予約システム導入によって荷待ち時間の短縮を図ろうとしています。東レのある工場では、荷待ち時間を1時間から15分程度に短縮した実績も挙がっています。そうしたなか、「各社が個別にシステムを導入するのは非効率」という意見が物流事業者から出されました。一方向からの視点に縛られない活発な議論こそ、まさに化学品ワーキンググループが求めているものです。現在は、化学業界推奨システムの選定も検討しています。
また、工場内の動線やバース設備の改善、適正な荷役機器・人員の配置、発着における納品指定時間の緩和・廃止といった取り組みも重要です。このようにさまざまな検討課題がありますが、2時間以内の荷待ち時間という縛りがあると、ローリー車での立ち会い作業などに支障が出てしまうケースもあります。今後、各省庁と協議の上、時間の縛りを外して別の方法で荷待ち時間を削減していく対応を個別に検討する方針です。業界特性をどう運用に当てはめていくか考えていくことも私たちのミッションです。

東レ 購買・物流部門 物流部長 水津知之

東レ 購買・物流部門 物流部長 水津 知之

三菱ケミカルグループ大島: 重労働となる手荷役に代わり、「パレチゼーション」*1により機械化していくことも重要な取り組みの一つとなります。例えば、日本では大型車両の免許を取得されている女性は13万人と言われていますが、実際にドライバーとして就労されているのは8千人ほどです。手荷役等の作業負担が大きいことがその理由の一つと想定されます。自動化や機械化によって環境を整えることがホワイト物流の実現、物流の労働力不足の解消につながっていくと考えています。

東ソー 百合: 「商慣行の改善」。これこそが化学品ワーキンググループの取り組みのなかでも肝になってくるものだと考えています。労働環境の改善には、ドライバーが荷物を運んだ先で課されているさまざまな納入条件や、朝一番といった納入時間の指定など、化学メーカーと納入先との間でこれまでにあった商慣行を改善していく必要があります。そうした改善は納入先、物流事業者、化学メーカーの三者がしっかりと納得する形で行っていかなければなりません。

三菱ケミカルグループ 大島: これから先、「ホワイト物流の実現」と「商慣行の改善」を成し遂げていくにあたっては、私たちの納入先である顧客企業様とのリレーションシップが重要な鍵となります。これまでにも各社がそれぞれの立場からさまざまな提案をしてきていると思います。しかしながら、個社単位での提案力には限界がありました。それが、今では「化学品ワーキンググループの総意」として意見を挙げていくことができます。この提案力の上昇も化学品ワーキンググループが有する意義の一つとして大変に重要だと言えます。

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 企画戦略部長 大島 弘

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 企画戦略部長 大島 弘

東ソー 百合: 化学品ワーキンググループは、23年12月に「2024年問題」に向けた自主行動計画を発表しました。現在は、この計画に基づいた2030年までのアクションプランを策定しています。このアクションプランを基にして、私たちは、顧客企業様が所属する各業界団体にまずは働きかけていこうと考えています。

「標準化」と「DX」を成し遂げる意義

三菱ケミカルグループ 林: 先ほど、パレチゼーションの重要性についての話が出たところですが、パレット化の次のステップとして、より効率的なパレット運用を考えていくと「標準化」というテーマが挙げられます。化学品は液体、粉状、ガス状と形状が一様ではなく、包材も多くの種類がありますので、それぞれの荷姿に応じたパレットが必要です。しかもパレットの規格は各企業で違います。効率的なパレット運用に向けた議論では、各社でパレットを所有するのではなく、ゆくゆくはレンタルといったアイデアもあり、また、積載効率の観点からもパレットの種類を増やさずに運用していく方が良いです。生産年齢人口が減少していく日本において、パレチゼーションは限られた人的リソースを大切にしていくために欠かせないソリューションと言えます。一方で、パレットの変更には投資が必要ですし、各社の梱包充填状態や保管場所、納入先の状況など調査も必要なため時間も要します。改革に向けて意識が高い企業が多く集まった化学品ワーキンググループだからこそ、標準化に向けて協力しあっていく、やりやすい環境が整ったのかなと思います。

三井化学 依田: もう一つ、私たちが物流改革を起こしていくうえで欠かせないテーマがあります。それは「DX」です。これまでに話があった「入場予約システム」やパレットに代表される資機材の「標準化」においてもデジタルテクノロジーの活用が必須です。共同物流のテーマ探索や、貨物・輸送手段・ルートのマッチングの場面でもデジタルの力を借りることによって大きな進展が期待できます。近い将来において共同物流に資する大きなプラットフォームを構築することも視野に入れています。担当者の知識や手計算に頼るのではなく、デジタルのプラットフォームがあれば、将来的に鉄道や海上輸送へのモーダルシフト*2もしっかりと成されていくでしょう。

三井化学 デジタルトランスフォーメーション推進本部 物流部長 依田馨

三井化学 デジタルトランスフォーメーション推進本部 物流部長 依田 馨

今、「共同物流」を推進することで未来は——

「化学品ワーキンググループ」の策定するアクションプランは、短期・中長期に分けた活動計画へと落とし込まれます。これから先、フィジカルおよびデジタルのさまざまな取り組みが短期・中長期で有機的に絡み合っていくことにより、化学業界には変革の風が吹き込み続けるでしょう。変革の旗手となるために立ち上がった化学品ワーキンググループは、未来をどのように展望しているのでしょうか。

三菱ケミカルグループ 大島: 化学品ワーキンググループは、経済産業省・国土交通省が主導する「フィジカルインターネット実現会議」内に設置された分科会として位置付けられていますが、その目指すべきビジョンは、2030年から40年にかけて業界を超えた究極の共同物流スキームを実現することです。我々としては、その実現に向けてしっかり活動を行っていきたいと考えております。共同物流の主目的の一つは積載効率を上げることにより、少ないアセットと人員でより多くの貨物輸送を可能にすることです。これにより、トラック1台当たりの売上増加、トン当たりコストの低減、また、環境面ではGHG排出量の削減につながります。結果として、物流会社、荷主企業、社会の三方にメリットがあると考えています。

東ソー 百合: 「2024年問題」に端を発した私たちの共創は、「持続可能な化学業界」を創造することに向かって発展していきます。まずは、「労働力不足」への対応を第一に考え、商慣行の改善をはじめ、さまざまな課題に取り組んでいければと思います。長い時間を要するものもあるだろうと思いますが、個社で努力するだけでなく、化学品ワーキンググループ全体で取り組むことで、よりよい成果へとつなげていきたいと思います。

東ソー 購買・物流部 物流グループリーダー 百合英憲

東ソー 購買・物流部 物流グループリーダー 百合 英憲

東レ 水津: 各社が自分ごととして「2024年問題」を捉えながら、業界が同じベクトルで持続可能な物流体制を整えていくことが重要だと考えています。例えば、業界全体で積載効率が向上すれば、さらなるGHG排出量の低減につながります。つまり「環境物流」に貢献するということです。今回のワーキンググループを通じて、各社が連携する道筋が立ちました。そして、化学業界を挙げた共創が、業界を超えて広がっていくことで、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みも進んでいくと信じています。

三井化学 依田: 本日は「共同物流」というテーマで化学品ワーキンググループの事務局4社が思いを語り合ってきたわけですが、私たちの究極の目的は「共同物流」という言葉自体が死語になることではないでしょうか。業界全体で物流の効率化を図ることがスタンダードとなり、もはや物流が課題ではなくなる。それが私たちの望む未来です。2030年にそうなっていたらいいと、私は本気で思います。

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長 林 寿樹

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長 林 寿樹

三菱ケミカルグループ 林: このワーキンググループは、中長期的な取り組みになると思います。次の世代にも参画してもらい、持続可能な物流システムの構築をめざしていきたい。そのためには、若手人材の育成が非常に重要です。
私たち化学業界は日本の多くの産業の川上に位置していることもあり、社会のなかで目立ち、特別に注目されるような存在ではありません。しかしながら、私たちの化学品がなければ、人々の生活を支える多くの製品は生まれてきません。私たちの製品は社会生活の基盤を支えており、そして、さまざまな業界・業種・企業の競争力をも支えています。共同物流を推進することによって日本の化学業界のサプライチェーンを維持することは、全産業を支えることにつながる。そのような気概を忘れることなく、これからも共創を進めてまいります。

数々の産業を支える化学業界が力を結集して取り組む「共同物流」という共創は、これまでの商慣行を大きく改善するとともに、個社単位では実現することが困難だった新たな可能性を次々に生み出しています。ともに歩みともに発展すること。持続可能な物流システムの実現に向けた動きは、化学業界から他の業界に波及し、この先の明るい未来へとつながっていくはずです。

  • *1 パレチゼーション:荷物をパレットに積み、パレット単位で物流を行うこと。出発地点から到着地点まで同一のパレットに荷物を積載したまま物流を行うことを一貫パレチゼーションという。
  • *2 モーダルシフト:トラック等の自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること。

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