三菱ケミカルグループ株式会社

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化学業界が力を結集して取り組む「共同物流」<前編>

サプライチェーン
化学業界が力を結集して取り組む
「共同物流」<前編>

March 21, 2024
 / TEXT BY MCG
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。
※本ページにおいて、「三菱ケミカルグループ社」および「三菱ケミカルグループ(MCGグループ)」は三菱ケミカルグループ株式会社とそのグループ会社を指します。

近年の「働き方改革」により労働環境の見直しが進み、2024年4月から国内のトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の制限が適用されます。トラックドライバーが不足し、物流の停滞が懸念される「物流の2024年問題」(2024年問題)への対応があらゆる企業の喫緊の課題となっています。

2023年7月、経済産業省・国土交通省が主導する「フィジカルインターネット*1実現会議」内に、化学業界が自主的に声を上げ、「化学品ワーキンググループ」を設置。荷主事業者や物流事業者を中心に70社を超える企業が参加し、化学品物流の改革が始動しました。今回は、その事務局メンバーである三菱ケミカルグループ、 三井化学、東ソー、東レの4社が集まり、化学業界による「共同物流」の意義、業界特有の課題解決に向けた取り組み、共創により広がる可能性について話し合いました。

メンバー
■メンバー(左から順に) ※敬称略
百合 英憲東ソー株式会社 購買・物流部 物流グループリーダー
水津 知之東レ株式会社 購買・物流部門 物流部長
依田 馨三井化学株式会社 デジタルトランスフォーメーション推進本部 物流部長
大島 弘三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 企画戦略部長
林 寿樹三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長

共同物流の必要性、その第一は「労働力不足」

三菱ケミカルグループ 大島:日本の生産年齢人口の減少もあり、物流業界ではドライバーの高齢化、労働力不足が大きな課題として横たわっています。加えて、「2024年問題」を受けて、化学業界としても将来の化学品の輸送・保管能力をいかに確保していくかが極めて重要な課題となっています。

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 企画戦略部長 大島 弘

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 企画戦略部長 大島 弘

三井化学 依田:労働力不足は物流業界に限らず、他業界においても、物流業務を担当する人材の高齢化や人手不足といった課題も浮かび上がっています。我々の仕事は製造業です。製品を滞りなく安全に運び、お客様に使っていただいて初めてビジネスとして成り立っています。つまり、労働力不足によって物流機能が損なわれてしまうと、事業そのものに大きく影響します。さらに言うと、化学メーカーは、あらゆる産業に材料を提供しています。すなわち、我々の製品の物流が停滞することは、様々な産業が停滞することにつながりかねません。そうした意味において、我々は大きな使命感・責任感を業界全体として共有しています。

三井化学 デジタルトランスフォーメーション推進本部 物流部長 依田馨

三井化学 デジタルトランスフォーメーション推進本部 物流部長 依田 馨

東ソー 百合:労働力不足の解消には、女性や高齢者、誰もが働きやすい環境の整備が挙げられます。この改革は、生産性向上の観点からも非常に重要です。しかしながら、我々が製造している化学品は一般の消費財とは異なり、危険物、毒物、劇物、高圧ガスといった取り扱いの難しい製品もあり、また、人力では移動が難しい重量物もあります。労働環境の改善に向けて個社単位でできることには限りがあるのが実情です。共創という形をとり、業界を挙げて取り組む方が効率的な対応ができると考えています。

東レ 水津:運送会社の担当者に話を伺うと、人材、特に若手人材の獲得が難しいと聞きます。他の産業に比べ、長時間労働、低賃金といった労働環境の悪さが理由です。こうした深刻な課題に対して荷主サイドからも労働環境を変えていくことが物流業界の生産性向上につながっていくと考えます。2017年前後に発生した物流危機の時代にも、東レは共同物流やパレット化、モーダルシフトなどを推進しました。しかし、正直申しますと、一部の共同物流は、物流危機が一旦収まると解消されてしまうこともありました。今回は労働環境の改善のための荷主の取り組みが法制度化される予定であり、各社がベクトルを合わせ、永続的な取り組みとしていかなければなりません。また、共同物流などによる積載効率の向上、モーダルシフトなどの取り組みは、物流面でのGHG排出量低減に直結します。「2024年問題」は、物流を変えるチャンスであり、化学業界全体で、そして業界を超えて改善していく良い機会だと捉えています。

様々な化学品物流の課題に共創で取り組んでいく

三井化学 依田: 物流にかかるコストの増大も課題です。当然ながら、物流のコスト増は経営に大きなインパクトを与えてしまいますので、我々としても物流費は抑えていきたい。一方で、我々の事業は、ご協力いただいている物流業界各社様のご理解・ご支援がないと成り立たないことも事実です。物流費のインパクトをいかに管理し、適正にしていくかが重要です。個社による対応で抑えきれないコスト増については、各社が連携し共同物流を推進することによって物流インフラを効率的に利用し、コストの適正化につなげていきたいと思います。力を合わせて取り組んでいきたいなと思いますね。

三菱ケミカルグループ 林:積載効率という点でも1社では改善が難しくても、複数社で行えば改善できる。共同物流の意義は大きいと思います。

東ソー 百合:コストの話にも通じますが、作業の明確化も重要なポイントです。先ほども申し上げたとおり、化学品に関しては可燃物、毒物、劇物、高圧ガスといった危険な物質を取り扱いますので安全に作業できる環境整備と、業界特有の商習慣による労働負荷の是正が必要です。例えば、ローリーの場合、納入先様との荷役協定書等を締結し、作業内容や基準を明確化するといった改革が考えられます。作業にはコストがついてきますので、作業内容を明確化することでコスト負担も明確になります。個社ではこうした改善が難しく、業界を挙げて基準づくりが不可欠です。しかしながら、長年の商習慣というのはすぐには改善できませんので、時間をかけてステークホルダーの皆様と対話し、理解を得ながら進めていきたいと考えています。また、今回のワーキンググループには大手物流事業者も参加いただいていますので、意見を伺いながら進められる点も大きな強みです。

東ソー 購買・物流部 物流グループリーダー 百合英憲

東ソー 購買・物流部 物流グループリーダー 百合 英憲

三菱ケミカルグループ 林:加えて、ワーキンググループの意義としては、発荷主・着荷主の視点で意見交換ができる体制が整ったことも重要なポイントです。発着の視点、物流業の視点からコミュニケーションを重ねることで、持続可能な物流の構築につながるのではないかと思います。

「化学品ワーキンググループ」の起点

個社単位では難しいことも、共創することで可能性が広がっていく。2023年7月に「化学品ワーキンググループ」が始動。ワーキンググループはどのような経緯で生まれ、拡大していったのでしょうか。

三菱ケミカルグループ 林:これまでも個社間で共同物流は行っていましたが、今回のような大きなうねりの起点となったもの、その一つと言えるのは、2019年当時に国からの要請もあって各社が行った「ホワイト物流宣言*2」ではないかと思います。「2024年問題」を見据えた「ホワイト物流宣言」以来、そこから各社で機運が高まってきたと思います。そうしたなか、三井化学社と三菱ケミカルグループが2021年秋から共同物流に向けた情報交換を開始したことが、23年の「化学品ワーキンググループ」設立へとつながっていきましたね。

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長 林 寿樹

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長 林 寿樹

三井化学 依田:そうですね。1社だけでは物流改革がなかなか進展しないというなかで、2021年から情報交換を積み重ねたのち、2023年1月に共同物流に向けた本格的な検討を開始し、プレスリリースも行いました。ここには化学業界における物流革新の機運を盛り上げていきたいという思いもありました。検討開始後、2社間での具体的な取り組みも進みました。例えば、同年6月からは三井化学が中京地域から関東に至る三菱ケミカルグループ社の物流網を活用し、7月からは逆に三菱ケミカルグループ社が三井化学の関東から東北までのネットワークを活用しています。これまでも近隣エリアでのネットワーク活用はありましたが、このように場所が離れたところでの物流網の相互活用は、化学業界においては初めての取り組みと言えるものです。

三菱ケミカルグループ 林:また、中間地点でトレーラー部分を交換し、ドライバーの負担軽減を図る「中継輸送」の試行なども行いました。そのようにして実際に2社間での取り組みを進めていくなかで、両社の念頭にあり続けたのが「2社だけでは非効率性の部分を埋められない」という強い危機感であり、「我々の製品はあらゆる産業の基盤である」という揺るぎない使命感や責任感でした。これらの思いが「化学品ワーキンググループ」の設立に際して各社に広く参加を呼びかけるアクションにつながり、事務局の責務を引き受けることにもつながりました。

三菱ケミカルグループ サプライチェーン所管 購買物流本部 物流支援部長 林 寿樹

三井化学 依田:我々2社間だけで共同物流を考えるのではなく、業界内で同じ課題を抱え、足踏みしている企業が団結し、より多くの知恵や知見を結集することで、さらなる可能性や新たなソリューションが生まれるのではないか。そのように考え、主体的に参加いただける企業を探し始めました。

三菱ケミカルグループ 林:「我々と同じように事務局に参加していただきたい」という思いを伝えるために、2023年2月に東ソー社、3月に東レ社に両社で出向いています。その際、この2社は、非常に高い温度感で事務局参加の呼びかけに応じてくださったことを覚えています。

東ソー 百合:東ソーの社内においても、このままでは物流が機能しなくなるという危機感がありました。以前はコスト削減が議論の中心でしたが、2015年ごろから物流の労働力不足が浮き彫りになったことで「いかに物流を持続可能にしていくか」という視点で社内検討が進んでいきました。これまでも他社と意見交換を繰り返しながら、個々の会社間で共同物流の取り組みにも励んできましたが、持続的な活動とするには業界を挙げた大きな取り組みが必要という思いを強く抱くようになっていました。まさに、そうしたタイミングで 三菱ケミカルグループ社と三井化学社からお声がけがありました「化学品ワーキンググループ」への参加はもちろん、事務局の一員となることについても東ソーとしては精一杯やってみようという気持ちでお受けしました。

東レ 購買・物流部門 物流部長 水津知之

東レ 購買・物流部門 物流部長 水津 知之

東レ 水津:三菱ケミカルグループ社と三井化学社から事務局への参加要請のお話を伺ったときには、並々ならぬ熱意が伝わってきました。「2024年問題」への対応が待ったなしの状況であるという危機感、ワーキンググループが化学メーカーに加え、省庁、物流事業者、大学を含めた多様なメンバー構成で意義ある集まりになるという期待感。これらがないまぜになったなかで、 東レも参加することを決めました。そこから半年以上を経た今、やはり、いろいろな立場の方々と「2024年問題」に対し多面的に議論させていただき、新たな気づきを沢山いただきました。最新の情報に基づいた各課題の検証も可能であり、参加したことへの意義深さを改めて感じています。

三井化学 依田:やはり、多様な立場から議論を尽くすということが大切なのだと思います。ワーキンググループには我々のような化学メーカーだけでなく、百合さんからもありましたが、大手の物流事業者もご参加いただいている状況です。多様な課題意識や解決のためのアイデア、リソースを集約していける座組みになっているところが大変に意義深いと感じています。

三菱ケミカルグループ 林:2023年7月のスタート時、ワーキンググループに参加していたのは40社ほどでした。それが年内には70社ほどまでに増えています。民間企業が主体で、これほど多くの企業が参加しているワーキンググループは他業界では見られません。このことについては、経済産業省の方々が大変驚かれていましたね。

三菱ケミカルグループ 大島:このような業界横断の連携が実現したのは、2024年問題に対する危機意識や共通の課題認識をお持ちで、コスト効率だけでなく持続可能な物流を構築していくというビジョンに賛同いただけたからだと思います。化学業界全体で取り組む相乗効果は大きく、大きな流れを生み出せると考えています。

「2024年問題」に挑むため、共創の必要性を感じ、個社単位の取り組みから70社超の企業が参加する化学品ワーキンググループによる「共同物流」へ。後編では、「共同物流」の具体的なアクションや目指す方向性についてお話をお伺いします。化学業界全体で取り組む「共同物流」の先にある未来の姿とは。

  • *1 フィジカルインターネット:各種インターフェイスの標準化などを通じて物流リソースに関する情報を企業・業界の垣根を越えて共有し、保管・輸送経路の最適化などを達成して物流効率化を図ろうとする考え方。
  • *2 ホワイト物流宣言:深刻化が続くトラック運転者不足に対応し、 国民生活・産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに、経済の成長に寄与することを目的に、「トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化」や「女性や60代以上の運転者等も働きやすい、 よりホワイトな労働環境の実現」に取り組む運動。

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