三菱ケミカルグループ株式会社

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三菱ケミカルグループCTOに聞く——“未来を拓く”イノベーションとは

三菱ケミカルグループCTOに聞く
“未来を拓く”イノベーションとは

March 22, 2023
 / Business Insider Japan掲載記事
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。

機能商品、ケミカルズ、産業ガス、ヘルスケアという4つの分野で幅広い事業を展開する三菱ケミカルグループ。 2021年にはベルギー出身のジョンマーク・ギルソン氏を社長に迎え、大胆な改革に取り組んでいる。

三菱ケミカルグループは2023年1月、新たなグループ理念を発表した。そこで強く打ち出されたのは、よりよいイノベーション(とその源泉であるサイエンス)による価値創造の実現。同社でCTOとしてイノベーションの推進を担うラリー・マイクスナー氏に、三菱ケミカルグループが目指す未来と、その実現のために不可欠なイノベーションについて聞いた。

新しいグループ理念は明快そのもの

ラリー・マイクスナー氏
ラリー・マイクスナー氏/三菱ケミカルグループ CTO。1992年に米国スタンフォード大学で博士号取得。1984年に米Exxon(現Exxon Mobil)入社。2011年2月から2017年1月まで、シャープ米国拠点であるSharp Laboratories of Americaのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)を務めた。2017年4月、三菱ケミカルホールディングス(現:三菱ケミカルグループ)執行役常務CIO(最高イノベーション責任者)兼CTOに就任。2022年4月より現職。

「新しいグループ理念の検討には、マネジメントの一人として段階ごとに携わってきましたが、パーパスやスローガンを見て、ものすごく驚いたんです、『まるで自分で書いたようだ!』と。私が書いたわけではないですが、私の考えが見事に言葉になっていました」

そう笑うのは、三菱ケミカルグループの執行役シニアバイスプレジデントで最高技術責任者(CTO)を務めるラリー・マイクスナー氏だ。米国出身で石油大手のエクソンをはじめ複数の企業での研究開発職を経て、シャープの研究開発を統括した経歴を持つ。2017年に三菱ケミカルグループに入り、一貫してイノベーション部門を統括している。

Purpose
三菱ケミカルグループの新パーパス

「パーパスは『革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていく』とあって、これは三菱ケミカルグループがこれまでもずっと取り組んできたことを表しているのですが、今回『革新的なソリューションで』という言葉が入った。KAITEKIという私たちが目指すものを語るだけでなく、それを実現させるのはイノベーションであることをはっきり打ち出しました」(マイクスナー氏)

「まるで自分が書いたようだ!」とマイクスナー氏が膝を打ったポイントは、もうひとつある。新グループ理念においてパーパスに続くスローガンだ。

「『Science. Value. Life.』と、サイエンスがトップになっているでしょう? すべてのステークホルダーへ価値を提供し(バリュー)、人々の健康な暮らしや社会と地球の持続可能性に貢献して(ライフ)、KAITEKIを実現していくのですが、その原動力となるのがイノベーション(とその源泉であるサイエンス)である。そのことが明確になり、うれしく思いました」(マイクスナー氏)

三菱ケミカルグループの裾野は実に広い。EV/モビリティ、デジタル、食品、メディカルなどの多岐に渡る市場へ事業を展開している。

「これまでもグループ全体で技術の革新に取り組んできました。私はこれまでに日米の双方でイノベーション創出を加速させる仕事に従事し、いろいろな企業の現場を見てきましたが、三菱ケミカルグループには優秀な人材がいて、能力は誰にも負けないと考えています」(マイクスナー氏)

そう誇るマイクスナー氏だが、グループCTOとしては別の見方も持っている。

「ただ、グループ全体で見ると、私たちの事業領域、そしてマーケットが非常に幅広いため、R&Dへの取り組みも広範にわたり、フォーカスが絞れているとは言えませんでした。現在は、注力する市場ごとに取るべき施策を明確にした上で、三菱ケミカルグループ各社が総掛かりで『One Company, One Team.』となってイノベーションに取り組む体制をつくっています」(マイクスナー氏)

従来はグループ内企業がそれぞれに取り組んできたイノベーションを、グループ一体で方向づけ、焦点を絞って加速させていく――これがCTOとしてのミッションであるからこそ、新たなグループ理念においてよりよいイノベーションによる価値創造の実現が明確になったことに、マイクスナー氏は我が意を得たと感じたのだろう。

個人からアイデアを引き出し、チームで展開する

彼も指摘したとおり、三菱ケミカルグループは従来から未来志向の変革に注力してきた。その“本気さ”は2021年に策定した経営方針、「Forging the future 未来を拓く」にもよく現われている。「forge」とは加熱した金属を叩いて強化・成形する「鍛造」を意味する動詞。「Forging the future」は、たとえば「Making the future」や「Forming the future」より、はるかに強い表現となる。

「あの経営方針を決めた会議のことも、強く印象に残っています。未来を創り出すことは簡単ではないしソフトでもない。20くらいあった候補の中から『forge』という言葉を選んだのは、『難しい道を行こうよ!』『チャレンジしようよ!』とグループ内に向けて呼びかけることを狙ったからです。やったことのないことでも自らチャレンジしなければ、いつまでも変わりませんから」(マイクスナー氏)

そして、イノベーションに向けたチャレンジに個人や組織が踏み出せる環境を生み、拡げることも、グループCTOとしてのマイクスナー氏の大きなミッションだ。

ラリー・マイクスナー氏

「グループ内には優秀な人材が揃っているので、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる体制をつくろうとしています。一般論ですが、日本企業では、素晴らしいアイデアを持っていてもそれを強く押し出そうとはしません。失敗を恐れてかリスクを取りたがらない傾向がある。会議でアイデアを募っても誰も目を合わせようとしてくれないという経験、みなさん、あるでしょう?」(マイクスナー氏)

こうしたリスク回避思考は、日本におけるイノベーション創出にとって足かせとなりがちなのだが、裏返すと日本ならではの強みになりうると、彼は考えている。

「個々人は引っ込み思案だけれど、チームとしての方針が固まって動き出すと積極的になる。個人からアイデアを引き出してそれをチームで展開できるようになれば、会社として大きな競争力になる。私たちがグローバルに『One Company, One Team.』を目指しているのは、そう考えているからです」(マイクスナー氏)

革新的なソリューションを生むための研究施設「SIC」、新たなステージへ

もちろん、「革新的なソリューション」を生み出す新たな体制の構築は、「簡単ではないし、ソフトでもない」。取り組むべき課題は少なくないのだ。グループ内だけでなく外部との協働で進めるオープンイノベーションから、多様なアイデアの基盤ともなるダイバーシティの推進、人材の育成や採用までもが、密接に結びついてくる。

「大きな企業グループだけに内向きになりがちだったので、外からの刺激をもたらすことは私の大きな仕事のひとつでした。コーポレートベンチャー活動を行う組織を社内に立ち上げ、グループ外の有望な技術・企業に投資をするといった取り組みの目的には、グループに刺激を与え、イノベーションを活発化させるためというのもありました」(マイクスナー氏)

さらにマイクスナー氏はこう続ける。

「ダイバーシティの向上も含めたHR(採用・育成・評価などの人事)は一見、CTOの業務ではないように見えますが、イノベーション創出の加速には欠かせません。このSIC(サイエンス&イノベーションセンター)でも私以外の外国人を見かけることはまだまだ少ないし(笑)、突き抜けたアイデアや失敗を恐れないチャレンジをプラスに評価する制度などもさらに強化していく必要があります。やるべきことは尽きません」(マイクスナー氏)

マイクスナー氏の話に出たSICとは、横浜市青葉区にある三菱ケミカルグループ最大の研究開発施設。200億円以上を投じて建設を進めてきた新研究棟が2022年9月にオープンし、この記事のためのマイクスナー氏の取材も、その一角で行われた。

社内交流エリア「IRODORI」
マイクスナー氏もお気に入りだという、SIC(サイエンス&イノベーションセンター)内にある社内交流エリア「IRODORI」。

「新しい研究棟ができたからといって急に何かが変わるというわけではないですが、ここに来れば、今までとは違う、新しい三菱ケミカルグループがあるということが誰の目にも分かる。海外のR&D施設と同じレベルの環境が整ったことは、外部との協働や人材の採用にも大きな効果をもたらします」(マイクスナー氏)

ちなみに、マイクスナー氏は相当に流暢な日本語の使い手だ。しかし、当人には今でも得意だという意識はなく、まして三菱ケミカルグループに入ったころは自信がなかったという。それでも、当初から重要なイベントでのスピーチは日本語で行うよう心がけ、今回の取材も日本語で応じた。

「他の人にチャレンジを呼びかけている以上、私自身もできるかぎりいろいろなチャレンジをしなければ……と考えてきました。失敗はしてもいいんです。失敗してこそイノベーションは前進する。私の下手な日本語からでも、それを感じ取ってもらえれば大成功じゃないですか(笑)」(マイクスナー氏)

着任から6年という三菱ケミカルグループでの勤務歴は、日本の大手企業の外国人マネジャーとしては長い部類に入る。その理由について、マイクスナー氏はこう明かす。

ラリー・マイクスナー氏

「私が入る前からグループが掲げていた『KAITEKI』という考え方が好きで、入ってみてさらに好きになりました。人や社会だけでなく地球環境までを含めて、今よりさらによくしていこうという取り組みをみんなが本気で続けてきた歴史が素晴らしいし、それをイノベーションで実現していこうという方向性も素晴らしい。これは終わりなき挑戦です。だからこそ、次の世代にまで『KAITEKI』という概念を受け継いでいきたい。――そう考えて仕事をしているうちに、こんなに時間が経っていました」(マイクスナー氏)

『私たちは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていきます』――三菱ケミカルグループのこのパーパスがマイクスナー氏のもとでどのように具現化されていくかは、変化とイノベーションを求められている多くのビジネスパーソンにとって注目すべきことだろう。

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