三菱ケミカルグループ株式会社

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三菱ケミカルグループCDOに聞く「スマート人材×デジタル変革」で叶えるグローバルトップへの道

三菱ケミカルグループCDOに聞く
「スマート人材×デジタル変革」で叶える
グローバルトップへの道

August 29, 2023
 / Business Insider Japan掲載記事
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。

ビシネスアジリティの高いデジタルケミカルカンパニーへ

経営方針に「Forging the future 未来を拓く」を掲げ、成長に向けた選択と集中、コスト構造改革などの競争力強化を進める三菱ケミカルグループ。その変革の鍵となるのがデジタル変革だ。デジタル技術と新たなビジネスモデルを活用し、今後の成長を支えるプロセス変革を推し進めていくという。

目指すべき姿は「デジタルケミカルカンパニー」。そして、その実現を担う従業員を同社では「スマーター・エンプロイー(スマート人材)」と位置づける。デジタル変革を牽引するのは、チーフデジタルオフィサー(以下CDO)の市村雄二氏。目指すべき企業像、従業員像など、市村氏の話からデジタル変革の狙いを紐解いた。

デジタル化が難しい化学業界で、従業員の熱量を武器に挑戦

三菱ケミカルグループは、2023年、Purpose、Slogan、Our Wayからなる新しいグループ理念を策定し、Sloganの「Science. Value. Life.」には、科学に基づいた多彩なイノベーションを創出して、社会と地球の持続可能性や人々の健康な暮らしに貢献し、そのために実行するすべての活動から大きな企業価値を生みだしていく決意を込めた。CDOの市村雄二氏は「化学業界の再編やグローバルエクセレントカンパニーへの進化を見据えています」と語る。

市村雄二氏
市村雄二(いちむら・ゆうじ)氏/三菱ケミカルグループ 執行役シニアバイスプレジデント チーフデジタルオフィサー。大手ICT企業にて国内外の営業・企画・事業開発・ベンチャー投資に携わる。2012年にグローバル製造業に入社し、M&Aや事業変革を進めた後、全社の新規事業開発を担当。その中から次のコア事業となるインダストリー事業を担当した後、「DX改革」をグローバルに統括、マネジメント。その間、経産省等の各種委員会委員、ISO(56000シリーズ;イノベーションマネジメント)委員、諸団体運営委員の活動や「イノベーション志向経営」に関する外部講演活動も行う。2022年9月より三菱ケミカルグループのCDOとしてデジタル所管を担当。

国内大手ICT企業を経て、グローバル製造業でDXに携わってきた市村氏がCDOに就任したのは2022年9月のこと。外の世界を知る市村氏だからこそ、三菱ケミカルグループの強さと弱さが見えたという。

「客観的にいえば、世界最先端の企業と比較すると、デジタルを使いこなしているとは言い難い。そもそも、化学業界は素材がリアルタイムで化学反応を起こし、常に変化しているので、デジタルで捉える難しさがあります。加えて、三菱ケミカルグループは事業領域が広範で、600近い関係会社を持つ大組織です。グループ内に複数のシステムが混在し刷新が遅れていたという現状もあります」(市村氏)

しかし、市村氏は「遅れていたら、追いついて追い越せばいい」と強気の姿勢を見せる。その自信は三菱ケミカルグループならではの強みにあった。強みの一つは、すでに2017年から事業所や工場、事業部門、コーポレート部門がそれぞれでデジタル化に着手してきたことだ。これらの活動はそれぞれの部署が点で進めていたものだが、現在進行中の全社共通デジタル変革のベースになったという。もう一つは、人材のポテンシャルと熱量だ。就任以降、現場に足繁く通った市村氏は、現場の人材の優秀さを感じ取っていた。

「変革には困難がつきもの。困難は熱量がなければ乗り越えられません。従業員は優秀なだけでなく、熱量が高い。私がデジタル変革の話をすると、品質管理や生産管理でデジタルをどのように活用したいか一生懸命に考えてくれます。そして、若手が管理職に提言し、現場で議論ができている。これだけの規模で、かつ歴史ある企業なのに、柔軟さがあると感じました」(市村氏)

人間が実現するデジタルケミカルカンパニーの姿

市村雄二氏
愛犬(ボーダーコリー)とともに体を動かすことが趣味だという市村氏。ボーダーコリーは障害物競走などのアジリティ競技で有名だ。

優秀で熱量の高い人材が現場にいる。そこにデジタルをかけ合わせれば、必ず上手くいくはずだ。市村氏には勝算と覚悟があった。

「三菱ケミカルグループは、上流から下流まで一気通貫で化学事業を手掛けています。一部をデジタル化するのではなく、開発、生産から購買、物流、営業、人事、経営まで、全てを変革しなくてはいけません。そのためには、従来のポリシーやルール、組織など、全てに手を入れても構わない。それだけの覚悟でやっています」(市村氏)

目指すべき姿は、「デジタルケミカルカンパニー」。ITサービスの標準化やデジタル技術・データの利活用、デジタルビジネスモデルの導入などで、業績を改善、従業員の成長などを後押しするという。そのために重要なのが、三つの要素だ。

ひとつ目は「Hyper Awareness(ハイパー・アウェアネス)」。業界、市場や社会の動向や地政学的リスクなど、社内外の環境を常にスキャンしリアルタイムに把握。機会と脅威を捉え、潮流を常に深く分析し理解する。二つ目は、「Informed Decision Making(インフォームド・デシジョン・メイキング)」。オープンで透明性が高く、客観性のあるエビデンスを元に議論をして、データや情報を利活用した意思決定を行う。この二つが揃うと、「Fast Execution(ファスト・エグゼキューション)」が可能になる。迅速に行動に移し、継続レビューして改善することで、レジリエントな企業運営を行う。

市村氏は、「この三つの要素があれば、どんな大企業でもビジネスアジリティ(ビジネス上の敏捷性)が生まれます。デジタルケミカルカンパニーとは、デジタルビジネスアジリティがある企業とも言えるでしょう」と語る。そして、この三つの要素は、従業員一人ひとりにも当てはまるという。

「営業でも購買でも製造でも、各現場で働くすべての従業員は、社内外の環境を常に意識して深く理解し、エビデンスとデータに基づいて決定を行い、その決定をもとに迅速に実行できるような“スマートな従業員”にならなくてはいけません。そのために、この三つの要素の中心に『勇気』を据えました。変化には不安がつきものです。だからこそ、最初の一歩を踏み出す少しの勇気が大事。三菱ケミカルグループの一人ひとりの心構えを示したOur Wayの一つに果敢(Bravery)を掲げていますが、勇気を出せる制度や環境を会社が整えることで、変化を楽しめる仕組みをつくっています」(市村氏)

そんなスマートな従業員を三菱ケミカルグループでは「Smarter Employee(スマーター・エンプロイー:スマート人材)」と呼ぶ。従業員のエンゲージメントが高まり、それぞれの業務領域で貢献することが、デジタルケミカルカンパニーの実現につながる。前述の三つの要素を持つことは全社共通だが、その先はそれぞれの部署に合わせて求められるスマーター・エンプロイー像を描き、現場の従業員がその人材像をさらにブラッシュアップしているという。

では、スマーター・エンプロイーによりデジタルケミカルカンパニーが実現した先に、どういった企業像を描いているのだろうか。

「デジタルによって自動化が進むと、人が手掛ける単純作業は減り、より価値が高い業務に着手できます。また、データや事実に基づいた分析、判断ができるようになり、リアルタイム性も上がります。時間の使い方は変わり、仕事の仕方はスマートになる。それによって従業員のモチベーションが上がれば、当然、企業の成長につながります。実現できれば、デジタル化が難しい化学業界においてベンチマークされるグローバルエクセレントカンパニーになれるはずです」(市村氏)

リアルタイムな情報収集で経営陣の会議も変革

市村雄二氏

現在、三菱ケミカルグループでは、部門を横断するバリューチェーン全体に関わるものや部門独自で行っているものなど多数のデジタル関連プロジェクトが動いている。それぞれに優先順位をつけ、点から線、そして面へとつなげているという。

「三菱ケミカルグループには数多くのシステムが存在しています。まず、それらをクイックに刷新して、自動化などできることから手を付けています。それだけでも業務効率が上がり、キャッシュフローも改善します。ただし、それだけだと点での改善に留まります。そこで、最初は徹底的に全体のアーキテクチャーの構築に取り組みました。これに基づいて各々のシステムを刷新することで、最終的には全てがつながるようにしています。足元の課題を解決しながら、同時に将来への布石も打っているのです」(市村氏)

すでに、経営改革、データ基盤整備、従業員の市民開発、スマートファクトリーに向けた取り組みが進んでいる。例えば、経営改革では、売上や原価といった数字が自動的に入力され、経営判断に必要なマネジメントレポートが自動で作成され、役員は24時間いつでもどこでも見られるような仕組みが構築されたという。

「これによって、これまで全世界の部署からファイルのバケツリレーで数字を集めて、集計していた作業が不要になりました。役員も事実とデータに基づいた詳細な分析ができます。役員会で集まったときには、すでに数字を見ている前提なので、今後の施策やアクションを徹底的に議論ができる。会議の進め方も変わりました」(市村氏)

データ基盤の整備では、データベースなどを整理し、データ利活用のためのルール、ポリシーを策定。ローコード、ノーコードでのプログラム作成も行われており、従業員が自らの業務を効率化するスマホのアプリを作っているという。良いアプリが生まれたときには、その情報も従業員間で共有しているそうだ。

スマートファクトリー実現のために、デジタルケミカルカンパニーの製造現場としてあるべき姿を三つに落とし込んだという。

「一つ目は、プロセス、設備を自律的に診断することで、設備や品質のトラブルを未然に防ぎ事故を起こさない。二つ目は、製造情報が自動で収集・連携・トレースされて、事業戦略に応じた顧客起点の販売事業計画が実現されている。三つ目が現場において心理的安全性が確保されて労働災害もない。この三つを実現するためのアクションとして、プラントや職場の安全・安定の徹底、労働生産性・スマート人材・データドリブンといった基盤の強化、顧客満足度や高品質・安定供給、生産性などの競争力向上を実現していきます」(市村氏)

マルチセンターモデルでグローバルに展開

市村雄二氏

デジタルを活用した変革には、企業文化の醸成も重要だ。すでに、プロジェクトの進捗やデジタル関連の社内情報を掲載するイントラサイトを立ち上げ、従業員に向けて発信している。また、リバース ITメンター制度を活用して、デジタルに長けた若手が役員クラスのメンターとなりITリテラシーを上げる取り組みを実施しているという。「部門トップのリテラシーが上がらないと、部門のデジタル化は進みません。ボトムとトップ、両方からデジタルを浸透させる取り組みを進めています」と市村氏は語り、こう続けた。

「会社の文化とは、従業員の行動の集大成にほかなりません。会社の文化を変えるには、従業員ひとり一人がスマートな働き方で、仕事をより自分事化して行動変容することが求められます。先ほども話した、スマーター・エンプロイー(スマート人材)です。そうなるためのワークショップや様々な基盤、方法論も整備していきます」(市村氏)

これらのデジタルへの取り組みは日本だけに留まらない。グローバルエクセレントカンパニーを目指す三菱ケミカルグループにとって、世界各国の拠点と連携したデジタル推進は必要不可欠だ。そこで採用したのが「マルチセンターモデル」である。国やエリアにとらわれることなく、具体的なデジタル変革に最も適した人材をセンターにして、グローバル全体でドライブをかける。グローバルエクセレントカンパニーには欠かせない仕組みだという。

「本社があるからといって、すべてのテーマで日本がコントロールタワーになる必要はありません。ガバナンスは本社が責任を持ちますが、自主・自立的に権限を移譲していきます。各拠点の従業員が本社に来たり、本社の従業員が世界各地の現場に行ったりしてもいい。実際、今回のデジタル変革におけるいくつかのテーマでは、すでに先んじた実績を残している拠点やグループ会社が主導しているケースもあります」(市村氏)

市村雄二氏

CDOへの就任以降、矢継ぎ早にデジタル推進に勤しむ市村氏。周りからは「なんだか楽しんでいるように見えます」と言われるという。「もちろん、大変ですよ」と笑いながらも、その姿には充実感が溢れている。

デジタルでどういった価値を生み出し、それが社会的意義にどうつながるのかを考えることは面白いですね。これだけの規模でポテンシャルを持ち優秀な人材がいる企業を、デジタル変革し、グローバルエクセレントカンパニーとなって世界の巨人に挑む。そんな変革の真っ只中にいて、その一端を担えることにワクワクしています。“楽しんでいるように見える”は、褒め言葉。楽しんで仕事をしている人ほど、学びも早ければ成果も出る。自分に言い聞かせると共に、従業員のみなさんにも楽しんで取り組んでもらうことを期待しています」(市村氏)

日本を代表する化学メーカーである三菱ケミカルグループ。デジタルによってその成長に弾みをつけ、目指すは世界でも存在感を示すスペシャリティマテリアルズカンパニーだ。その実現は、これからのデジタル変革にかかっていると言っても過言ではないだろう。

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