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機能性ポリカーボネート樹脂を用いた自動車内装部品の高付加価値化3.高硬度PC樹脂「ユーピロン®」Kシリーズ

  高硬度PC樹脂「ユーピロン®」Kシリーズは、従来のPC樹脂の課題である表面硬度が低い点を改良したグレードである。当該グレードは、特殊芳香族PC樹脂を原料の一つとして使用することにより、高い表面硬度を発現している。このような高い表面硬度を発現する特殊芳香族PC樹脂は、ビスフェノールAから得られるPC(BPA-PC)樹脂が持つ耐熱性、耐衝撃性、難燃性、低吸水性という性質を保持しつつ、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂が持つ表面硬度、耐擦傷性に優れるという性質も兼ね備えている(図3)。

  特殊芳香族PC樹脂を使用した「ユーピロン®」Kシリーズは、MEPのコンパウンド技術により、多岐にわたるグレードを展開している。「ユーピロン®」Kシリーズの主なグレードは次の通りである。

  • 基本グレード
  • 低複屈折グレード
  • 爪傷防止グレード
  • PCアロイグレード

以下、それぞれのグレードについて紹介する。

3.1 基本グレード

  「ユーピロン®」Kシリーズ基本グレードは図4、表2に示す通り、鉛筆硬度と流動性の違いで様々なグレードを設定している。特殊芳香族PC樹脂を用いた高付加価値化には、二通りある。一つは、特殊芳香族PC樹脂を構成するモノマーともう一つの別のモノマー(多くの場合ビスフェノールAが用いられる)との共重合による手段であり、もう一つは、特殊芳香族PC樹脂とBPA-PC樹脂とのコンパウンドによる手段である。前者は物性を変更するために共重合組成の変更を重合工程から行う必要があるが、後者は配合比率の調整により物性の調整が可能である。MEPにおいては、後者の手法を採用し、配合比率を調整することにより、鉛筆硬度HB~3Hの範囲で様々な流動性を有し、且つ従来のBPA-PC樹脂と同様に透明性が優れたグレードを揃えている。

  「ユーピロン®」Kシリーズ基本グレードは、鉛筆硬度がHB~3Hと高い表面硬度を有する為、ハードコートレスが可能である。また、BPA-PC樹脂等、他のPC樹脂と比較して密度が低く、BPA-PC樹脂と同等の成形加工性を有している。そのため、BPA-PC樹脂にハードコートを施している部品においては、Kシリーズに置き換えることにより、ハードコートレスとなることに加えて、部品重量も軽くすることが可能となる。また、鉛筆硬度が高いのみならず、スチールウールやポリエステル製軍手などによる擦れに対しても、良好な耐性を示している (図5)。この特徴により、従来ハードコートが必要であったオーディオボタンや表示窓、タッチパネルセンサ等のハードコートレス化が可能となるだけでなく、部品取扱い時のマスキングフィルムも不要となると言う副次効果も得られた。

  「ユーピロン®」Kシリーズ基本グレードは、ハードコートレスの用途のみならず、ハードコートを塗工する場合においても、好適に用いられる。当該材料を基材として用い、ハードコートを塗工することによって、基材の表面硬度の寄与もあり、最大9Hとガラス並の非常に高い表面硬度を発現させることも可能となる (図6)。この特徴を生かし、三次元曲面を有するようなタッチパネルディプレイ等では、基材の三次元曲面形状を「ユーピロン®」Kシリーズ基本グレードとし、表層にハードコートを塗工することで、ガラス並の表面硬度を有する製品を供給することが可能となる(図7)。この様に、ハードコートや塗装などを行う際には、BPA-PC樹脂と同じ塗料が使用できると言う利点もある。

  また、特筆すべきことに、「ユーピロン®」Kシリーズ基本グレードは、アルカリ系化合物やアミン系化合物に対しては、BPA-PC樹脂より優れた耐性を有している。

  更に、「ユーピロン®」Kシリーズ基本グレードの吸水率は、23℃水中に24時間浸漬後にて0.19~0.21%と、BPA-PC樹脂(0.22~0.24%)やPMMA樹脂(0.4~0.5%)と比較して低く、使用環境下における湿度による寸法変化が小さくなる。この特徴は、基層にBPA-PC樹脂を用い、表層に薄く「ユーピロン®」Kシリーズを用いた積層フィルムとした際に効果を発する。基層にBPA-PC樹脂を用い、表層にKシリーズを用いた場合と表層にPMMA樹脂を用いた場合とを比較すると、表層にKシリーズを用いた方が、吸水による反りが起こりにくくなる (図8)。この特徴を生かすと、反りが少なく賦形しやすい積層フィルムを提供可能となる。このフィルムを用いてインモールド成形を行うことにより、従来の BPA-PC樹脂からなる製品に高い表面硬度を付与することも可能となる。

3.2 低複屈折グレード

  自動車運転時に乗員が偏光グラスをかけた場合、偏光グラスを通して液晶ディスプレイやタッチパネルを見ると、画面に虹模様が見えることがある。この理由は、偏光グラスが、特定の振動方向の光のみを通すためである。特定の振動方向のみの光に制限されることにより、液晶ディスプレイなどを構成する樹脂に存在する光学歪(成形品内に存在する残留応力が生む光学的な位相差)が強調され、虹模様にみえる。このような虹模様は、時にはディスプレイ等に表示されている文字や図柄等の視認性を妨げる為、虹模様が発生しないよう、光学歪を抑えることが重要である。従来はこの光学歪を、射出圧縮成形法を適用する事により極力除去してきた。しかしこの方法は、射出圧縮成形に対応した成形機や金型が必要であり、汎用性に欠けるという問題があった。そのため、光学歪みの発生を極力抑制できるように、複屈折の低い樹脂に対する要望があった。

  この光学歪による虹模様の発生を材料面から改善できる材料「ユーピロン®」Kシリーズ低複屈折グレード(表3)を開発した。本グレードは、原材料組成を見直し、位相差が発生しにくくなるように調整を行ったことにより、前述の射出圧縮成形を用いなくても、汎用的な射出保圧成形によって、光学歪が少ない製品を得ることが可能である(図9)。加えて、Kシリーズ特有の高い表面硬度も兼ね備えているため、「ユーピロン®」Kシリーズ低複屈折グレードを用いることにより、自動車用の各種液晶ディスプレイやタッチパネルにおいて、ハードコートレス、且つ、偏光グラスをかけた場合でも視認性の高い製品を得ることが可能となる。

3.3 爪傷防止グレード

  発色性、特に漆黒性に優れた材料を用いて内装部品を提供する場合、人の爪が触れることで生じる傷(爪傷)も考慮する必要がある。一定の硬さで荷重が変化することにより傷がつく爪傷と、一定荷重で傷をつける媒体の硬さが変わる鉛筆硬度とは傷つきの評価指標が異なっており、鉛筆硬度が高い材料を用いても、爪により傷がつく場合もある。「ユーピロン®」Kシリーズでは、この爪傷を防止するため、基本グレードを改良し、新たに爪傷防止グレードを開発した(表4)。

  爪傷つき性の評価手法には、直接人の爪で引っかく方法もあるが、個人差もあり定量性に欠ける。そこで、爪と硬さが近い6,6-ナイロン樹脂の棒を使用し、荷重を変化させながら試験を行い、傷がつく荷重を求める方法によって評価を行った(図10)。その結果、「ユーピロン®」Kシリーズの基本グレードは、BPA-PC樹脂より傷がつきにくいが、PMMA樹脂と同等の100g荷重で傷がついてしまい、充分なレベルではなかった。今回新たに開発した爪傷防止グレードは、750g荷重でも傷がつかず、充分満足できるレベルの耐爪傷性を有していた。 (表5)。

  この爪傷防止グレードは、耐擦傷性にも優れ、ティッシュペーパーやフェルトのようなものでこすり付けても、擦り傷が付きにくいと言う特徴を有しており、人の手に触れたり、掃除のために布で擦ったりすることの多い、インストルメントパネやスイッチベゼル等に好適な材料である。

3.4 PCアロイグレード

  近年、自動車内装材において、乗員保護の観点で耐衝撃性(特に耐面衝撃)を要求されることが多くなってきた。そのため、当該部品に使用される材料はABS樹脂から、BPA-PC樹脂とのアロイ材料であるPC/ABS(BPA-PC/ABS)樹脂へと置き換わってきている。MEPにおいては、乗員保護対象部位に使用されるBPA-PC/ABS樹脂材料として、「ユーピロン®」MB2215Rを提案している。従来のBPA-PC/ABS樹脂(例えばMB2212R)では、パンクチャー衝撃試験といった面衝撃試験において脆性破壊を起こすのに対して、MB2215Rは延性破壊となる。さらに塗装を行った状態においても耐面衝撃性に優れる。従来のグレードでは、塗装により脆性層が形成されるため、脆性破壊となるが、MB2215Rを用いると塗装時においても無塗装と同様に延性破壊となる。

  「ユーピロン®」KシリーズにおけるPCアロイグレード(表6)は、前述したMB2215Rと同様に耐面衝撃性に優れ、且つ高い表面硬度を保有する材料である。一般的に、表面硬度が高い材料は脆くなる傾向があるが、「ユーピロン®」KシリーズPCアロイグレードは、表面硬度をHB~2Hまで高めながらも脆くならない材料であり、シャルピー衝撃強度が20kJ/m2以上と優れた耐衝撃性を有する材料である。耐面衝撃性の指標となるISO6603-2に準拠したパンクチャー衝撃試験を実施すると、表面硬度の高いPMMAは、破壊形態NY(降伏しない挙動)となり、従来のBPA-PC/ABS樹脂であるMB2212Rは破壊形態YS(安定亀裂によって起こる降伏)である。一方、「ユーピロン®」KシリーズPCアロイグレードは、すべてMB2215Rと同様な破壊形態YD(深絞りによっておこる降伏)となる(図11~12)。この様に、「ユーピロン®」KシリーズPCアロイグレードは、衝突時に部品が割れて破片が飛び散らず、乗員保護対象部位に適用可能な材料である。

  また、従来のBPA-PC/ABS樹脂と比較して、発色性にも優れている。漆黒調に調色した各グレードの明度L*値(D65/10º光源)は、すべて5未満(KB2101UR: 4.49、KB2201UR: 4.60、KB2301UR: 4.94、KB2401UR: 4.27)と、MB2215Rの黒色材(L*=8.38)と比べ、見た目にも数字の上でも明らかに漆黒性に優れている。このように発色性に優れることから、材料を着色するだけで、無塗装で様々な内装意匠部品に適用可能である(図13)。

  「ユーピロン®」KシリーズPCアロイグレードは、BPA-PC/ABS樹脂と同等の成形収縮率、線膨張係数を有している。そのため、BPA-PC/ABS樹脂に塗装を施していた製品を成形するための金型をそのまま使用可能であり、他の高表面硬度材料のように材料切り替えの際に、金型設計をやり直す必要がない。本PCアロイグレードを用いることにより、塗装製品から無塗装製品への切り替えが容易となるメリットもある。

  「ユーピロン®」Kシリーズについて、代表的なグレードについて紹介した。ここでは紹介出来なかったが、他にも鉛筆硬度を4Hまで高めたガラス強化グレードや爪傷防止特性と耐面衝撃性を兼ね備えたグレード、難燃グレード等もある。MEPにおいては、日々各種ニーズに合わせた製品設計を行っており、ラインアップの拡充を行っている。


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